収益の伸び悩みに頭を痛めるNTTグループが,新たな市場の開拓に向けて本格的に動き出した。「ホームICT」である。

 NTTが狙いを定めたのは,家庭内のネットワークにつながったテレビやゲーム機,携帯音楽プレーヤ,デジタルカメラ,ホーム・セキュリティ用のセンサーなどの機器だ。ここへ来てネットワーク機能を持つ機器は急速に増えてきている。ただ,一般家庭を対象に考えると,ネットワークに関する知識に乏しいユーザーは少なくない。ネットワーク機能を持たせたことで,機器の使い方が難しくなっている側面もある。

 家庭だけではない。いわゆるSOHOでも,複合機をはじめネットワーク対応機器は数多くある。その運用管理は必ずしも容易ではない。

 こうしたユーザーに向け,もっと便利にネットワーク機器を利用・管理できる環境を実現しようというのがホームICT構想である。本格的にサービスが提供されるようになれば,ユーザーにとってはネットワークを今まで以上に便利に使える環境が整う。

 NTTは2009年11月,ホームICTサービスの土台となる「ホームICT基盤」を完成させた(図1)。協業パートナ(サービス事業者)向けに提供する。これを受けて,NEC,シャープ,バッファロー,パナソニック電工,富士ゼロックスの5社が,基盤を検証するパートナとして名乗りを上げた。2010年秋の商用化に向け,NTTと一緒にホームICT基盤を使ったサービスを開発する。

図1●NTTの「ホームICT基盤」<br>ホームICT基盤を介して,サービス事業者がホーム・ネットワークにつながった機器にサービスを提供できる。
図1●NTTの「ホームICT基盤」
ホームICT基盤を介して,サービス事業者がホーム・ネットワークにつながった機器にサービスを提供できる。
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付加価値を付け正のスパイラルを描く

 NTTがホームICT用に考えているサービスの典型例は,既存のサービスの中にある。2007年10月にNTT東日本,2008年3月にNTT西日本がパソコン向けに開始した「リモートサポート」がそれ。家庭や企業のネットワークにつながるパソコンの操作をセンター側から教えたり,ユーザーに代わって復旧したりする。

 リモートサポートには,既にかなりの実績がある。サービス開始から約2年が経過した2009年9月時点で契約数は150万を超える。これと同様のサービスが,急速に充実してきたネットワーク対応家電でも成り立つと踏んだのだ。

 NTTは海外の動向やユーザー調査などから防犯・防災,映像や音楽の共有,ヘルスケア,省エネなどにもニーズがあると考えている。防犯・防災サービスは,家庭内にカメラや赤外線センサー,振動センサーなどを取り付け,何か問題が発生した場合に住人に知らせるというもの。セコムや綜合警備保障などが実施しているセンサーによる家庭内監視サービスの廉価版と考えれば分かりやすい。

 映像や音楽の共有は,友人や遠くに住む家族との間でのコンテンツのやり取りを可能にするサービス。省エネは,家庭内にある機器それぞれの消費電力のモニタリングや,住人の動きに合わせたスイッチのオン/オフ管理といったものを考えている。

 NTTにとっては,サービスの種類や分野を拡大し,ユーザーに訴求できれば,最終的には回線の契約が増える可能性がある。サービスへのユーザーの依存度が高まれば,既存顧客の他社回線への乗り換えを阻む防波堤にもなる。そして,サービス事業者がホームICT基盤を利用する際の手数料を徴収すれば,直接の収益源としても期待できる。NTTはこうした正のスパイラルを描き,収益拡大を図ろうとしている。