本研究所では、クラウドコンピューティングについて、モバイルソリューションの観点から企業の情報システムを考えます。これまでは経営者やユーザーの観点から、クラウドの価値や本質、クラウド導入に積極的な企業の条件、コラボレーションの大切さ、IT部門の意識変革などについて言及してきました。今回はそれらを踏まえて、企業におけるITをどう整理し仕分けるのか、実際のプロジェクト事例を元に研究します。

仕分け方法に戸惑う企業IT部門とITベンダー

 2009年秋以降、弊社のクライアント企業からは、「クラウド化を見据えて情報システムのあり方を見直したい」「事業環境に即した抜本的な改革を実行したい」といった相談が増えてきています。そのうち、いくつかは既に実際のプロジェクトとして始動し、後に述べるような、苛烈な仕分け作業が進んでいます。

 一方、ITベンダーからは、顧客企業への提案に向けたアプローチ方法を検討しているものの「どこから手をつければ良いか分からない」「漠然とした仕分けポイントは分かっているが、論理的に整理して落とし込めない」といった声をよく聞くようになりました。業務とシステムを仕分けるだけとはいえ、なかなか整理できないのが実状でしょう(図1)。

図1●業務とシステムの仕分けイメージ
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 ただ、企業のIT部門ITベンダーの双方が、モバイルクラウドに対し、全体感を持って、投資対効果を意識して取り組みたいとの思いは共通です。だからこそ、社内決裁の申請時にも、これまでの延長線上ではなく、効率的で業務に貢献できるシステムを作るために、何をどのように整理するかを真剣に考えようとする傾向が強まっているのです。

 もちろん、経営者も昨今の経済環境の中では、ITにこれまでのように巨額の投資を続けられないということは、ヒシヒシと感じているはずです。「複数年にわたりIT投資を抑えたい」という声も聞こえる中、IT部門としては、アウトソースやモバイルクラウド化に向けた納得感のあるシナリオと施策を提案しなければなりません。

 しかし、前回も述べたように、複雑な情報システムの環境が既に存在し、IT部門の意識レベルもばらばらな中では、戸惑いを覚えるのもまた事実です。これらの課題について、コンサルティング現場で伝えているのは、「事業企画部門や業務部門とともに、全体の構造を棚卸しすることから始めましょう」ということです。

事業環境から棚卸しすることが不可欠

 2008年のリーマンショック以降、事業計画が思うように運ばない中では、IT投資も当然、多くを割くわけにはいきません。これまでの投資に対する償却費も重くのしかかっています。コスト削減は事業収支の観点からも避けられない取り組みであり、視点です。そうは言いながらも、ITの果たす役割・期待感が年々大きくなっているという二律背反な事情があります。

 そこではまず、事業収支の観点からIT投資額の妥当性を評価することから着手する必要があります。複数年にわたって現状の投資が可能な事業領域と、そうでない事業領域を明確に分離するわけです。極めて当たり前の取り組みに思えますが、全社コストとして、事業別に分かり易く配賦していない企業では、分けることすら抵抗感があります。ただ今回は、この部分は、分けられている前提で話を進めます。