バンクーバーで2月12日に開幕した第21回冬季オリンピック大会も、閉幕の時期が近づいてきた。筆者は,開幕が迫る2月3日から4日にかけて、バンクーバーの冬季オリンピックを巡るメディア事情を探ろうと現地に入った。

カナダでは民放のCTVと、公共放送のCBCが広告分野で競合

写真1 バンクーバーにあるCTVの拠点
写真1 バンクーバーにあるCTVの拠点
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 バンクーバーのダウンタウンには、二つの大きな放送局がある。一つは、民放局で最大の視聴率シェアを持つ「CTV」である(写真1)。CTVの親会社の「CTVglobemedia」は、カナダで多くのローカル地上局を持ち、数多くの衛星・ケーブルテレビサプライヤーを運営しており、そのジャンルも多岐にわたる。2001年には、カナダ国内で最大の英語スポーツチャンネル「TSN」もグループに加えた。また、カナダで最大のラジオネットワーク「CHUM」も傘下に持ち、カナダでの広告放送の重要な位置を占めている。こちらの陣営には、「The Globe and Mail」という新聞もあり、当地では「CTV」と事務所をシェアしている。

 今回の冬季五輪では、国際映像を制作するCTVがホスト局であり、カナダ国内の映像放映権も持ち合わせる。特筆すべきは、この大会と2012年にロンドンで行われる夏季オリンピック大会について、カナダの国内放映権を独占的に獲得したことである。

写真2 バンクーバーにあるCBCの拠点
写真2 バンクーバーにあるCBCの拠点
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 これまでのカナダ国内での五輪大会放映権は、公共放送である「カナダ放送協会 (CBC:Canadian Broadcasting Corporation)」(写真2)が獲得していたが、国際的にも五輪大会の配信権は高騰してきていた事情がある。CBCは受信料とCMで運営されているカナダ最大の放送ネットワークである。

 しかし、国土は広いものの人口はそれほどでもなく経済規模も小さいカナダにおいては、広告の販売がCBCの経営に深刻な影響を与えることもある。ちなみに、韓国でも、今までKBSとMBC、SBSの共同国内配信体制であったオリンピックの韓国内における放映が、このバンクーバー大会はSBSの独占となっている。こういった現象は、NHKと民放がジャパンコンソシアム(JC)を組んで共同配信する日本から見ると、ずいぶんと文化の違いを感じる。

 ちにみに、CTVが中継した開会式の視聴率は70%に迫るもので、昨今のスポーツイベント中継でもトップレベルだったとのことだ。

北米でのSamsungの台頭が印象的

写真3 ビルの壁面で展開されたSamsung Electronicsの広告
写真3 ビルの壁面で展開されたSamsung Electronicsの広告
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 バンクーバー国際空港に降り立った時から、随所に見られたのぼりが「Samsung」である。全部で9社あるIOC公式スポンサーのうち、日本のパナソニック 米General Electricとともに、家電分野での企業イメージアップのために、この冬季五輪のスポンサードを行うに際して、バンクーバー中の公共施設やバス停、ビルの壁面などに同社の広告を展開していた(写真3)。

 昨年の北米でのテレビ出荷台数シェアが1位となったSamsung Electronicsは、今回は携帯電話の分野でもそのシェアを広げるための手段としてこの冬季五輪を舞台に選んだ形である。次世代のデジタル家電として、同社が携帯電話の世界展開を最優先している姿を垣間見た。

 Bellの直営ショップには、Samsung Electronicsのスマートフォン「OMNIA」のオリンピックパッケージも置いてあった。いずれスマートフォンが台頭することを予測して、同社がiPhoneとの市場争いに参加していく意思を感じた。

 なお、今回の五輪コンテンツでは、当地においての通信配信サービスは、動画は「CTV」のサイトにアクセスすれば、かなりの画質で競技の模様をクリップ視聴ないしはライブ視聴できるようになっていた。筆者はホテル内でサービスされている無線LANと日本から持参したパソコンを使い、聖火リレーの様子をクリップ視聴してその画質水準を確認したが、全く問題はなかった。

Rogersによるデジタルケーブルが台頭

 カナダはテレビ受信世帯の約8割がケーブルテレビ経由で視聴している。HDTV放送を受信できるデジタルSTBの導入が進み始めたところだ。特にバンクーバーでは、カナダでも一、二を争う通信キャリアのRogers Communicationsが積極的な販促を展開中である。

 ベーシックサービスとして、HDTV放送を17チャンネル用意した上で、STBのレンタル料の割引きキャンペーンや視聴料金割引を展開している。冬季五輪を期に、アナログからデジタルSTBへの移行を促進したいというのは日本と共通の様相だ。

 いきなりPVRの導入に踏み切る世帯も増えてきているというのは、都心の電気店売り場の店員の弁だが、リセッション下にある店舗(店舗内のテレヒもデジタルSTB経由のCTVを流していた)では日本よりも薄型テレビのディスカント販売が一般化していた。

 やはり、Samsung ElectronicsとLG Electronicsの液晶テレビは、ディスプレイ寸法が同じでも日本製よりも2割程度安い。画質も、最先端の日本製テレビ以外と比べれば一般の視聴者が気にするほどの差はみつけるのは困難である。こうして海外で家電製品の売り場をのぞくと、日本のテレビメーカーのブランド力ではなかなか現状の価格差を乗り越えてまでの製品訴求力はなく、ブランド力の一層の底上げが最優先課題になっていると感じた。


佐藤 和俊(さとう かずとし)
放送アナリスト
茨城大学人文学部卒。シンクタンクや衛星放送会社,大手玩具メーカーを経て,放送アナリストとして独立。現在,投資銀行のアドバイザーや放送・通信事業者のコンサルティングを手がける。各種機材の使用体験レポートや評論執筆も多い。