テレビコマーシャルなどでよく目にする「ジェネリック医薬品」だが、ジェネリック医薬品とはどんな薬なのか、実はまだよく分かっていない人も少なくないのではないだろうか。まず知っておきたいのは、ジェネリック医薬品は医師に処方してもらう薬であり、ドラッグストアやコンビニなどで医師の処方せんなしに買える市販薬(大衆薬)とは違うということだ。

特許の切れた新薬と同じ有効成分で作られるジェネリック医薬品

 そもそもジェネリック医薬品とは、先発医薬品(新薬)の特許が切れた後に、同じ有効成分を使って製造・販売される医薬品であり、「後発医薬品」とも呼ばれる。日本ジェネリック医薬品学会代表理事の武藤正樹氏(国際医療福祉大学大学院教授・国際医療福祉総合研究所所長)によれば、ジェネリック医薬品とは「一般名の薬」という意味なのだそうだ。

 薬の名前には、我々消費者になじみの深い“商品名”のほかに、有効成分名としての“一般名(generic name)”がある。例えば、胃潰瘍の薬として知られているガスターの一般名は「ファモチジン」という。ガスターは先発医薬品だが、「ファモチジン」という一般名のジェネリック医薬品は、ガスポート、ガスメット、ガスリック、ガモファー、クリマーゲンなど何種類もある。一般名が同じ薬であれば、商品名が異なっていても、有効成分は同じだ。

 このように、1つの先発医薬品の特許が切れれば、各製薬メーカーから一斉にジェネリック医薬品が製造・販売されることになる。代替調剤(薬剤師が患者の同意の上で、医師が処方した薬を同じ薬効成分を持つほかの薬に変更できる)が普及している米国や英国では、医師が処方する薬のうち、ジェネリック医薬品が占める割合は約半数にも達しているという。「欧米では、医師が医薬品を一般名で処方すると、薬剤師が後発医薬品を調剤することから、後発医薬品のことを“ジェネリック医薬品”と呼ぶようになった」と武藤氏は説明する。

 新薬の開発には、10~20年にもわたる歳月と数百億円もの投資が必要といわれる。このため先発医薬品には、長年の商品開発の対価として、20~25年は専売特許が与えられ、類似品が作られないよう法律で保護されている。一方、先発医薬品と同じ有効成分を使って製造されるジェネリック医薬品の場合、既に先発医薬品で有効性や安全性が臨床試験などで確かめられているため、開発に要する期間は短く、研究開発費用も少なくて済む。さらに、薬としての承認の手続きも先発医薬品に比べて簡素化されているので、その分、価格を安くすることができる点がメリットだ。

 武藤氏によれば、ジェネリック医薬品の価格は、市場デビューを果たす段階で先発医薬品の7割からスタートすることが決まっていて、その後は、2年に1回の薬価の見直しのときに、さらに安くなっていくことが多い(ただし、先発医薬品の価格も下がっていくので逆転する可能性もある)。

医療費抑制のため厚労省もジェネリック医薬品の使用促進に注力

 このように価格が安いジェネリック医薬品が普及すれば、処方された医薬品の薬剤料として我々患者が自己負担する分が減るだけでなく、医療費全体の削減にも貢献することが考えられる。このため厚生労働省は最近、医療費抑制の有力な手段として、ジェネリック医薬品の使用推進に力を入れている。

 その一環として、厚労省は2006年、08年と相次いで処方せん様式を変更、これまで我が国では認められていなかった代替調剤制度を導入した。2012年度までにはジェネリック医薬品のシェアを数量ベースで30%以上にするとの目標も掲げている。

 とはいうものの、06年度の調査では、日本におけるジェネリック医薬品の数量シェアは16.9%に過ぎず、欧米に比べて普及は進んでいない。その後も使用促進に向けて、各種取り組みを行っているものの、ジェネリック医薬品の使用割合はいまだにそれほど増えていないのが実情のようだ。

 ジェネリック医薬品は、かつて「ゾロ品」と呼ばれていた時代があった。武藤氏によると、先発医薬品の特許が切れるとゾロゾロとたくさんの後発医薬品が作られたため、ゾロなのだそうだ。当時、ゾロ品に対しては、先発医薬品に比べて、品質、情報提供や供給体制などに不安を感じる医療関係者も少なくなかった。日本でジェネリック医薬品の普及が進んでない要因のひとつとして、このころのイメージが医療関係者の間でまだ払拭しきれていないことも指摘されている。

 しかし、「時代は変わって、今の日本のジェネリック医薬品は世界でも有数の高品質になっている」と武藤氏は話す。「1980~90年にかけて、ジェネリック医薬品の認可のハードルは高くなり、現在は厳しい試験を経て製造・販売されている。品質は一層向上しており、全く問題ない」という。

 前述のように、ジェネリック医薬品の有効成分は先発医薬品と全く同じであり、効能・効果も変わらない。ただ、保存料や着色料といった添加物は各メーカーによって異なるため、製剤によっては大きさや味、においなどに違いがあったり、先発医薬品では解決できなかった副作用が出にくいように改良されたものもある。

 価格が安いジェネリック医薬品は、薬の服用期間が長期にわたる高血圧や糖尿病、高脂血症などの生活習慣病で特にお勧めだと武藤氏はいう。日本ジェネリック医薬品学会が運営する情報サイト「かんじゃさんの薬箱」では、先発医薬品からジェネリック医薬品を検索したり、価格を比較することができる。ジェネリック医薬品に変えて、もし効き目に不安を感じたら、先発医薬品にいつでも戻すことは可能だというので、関心がある人は一度試してみてはいかがだろうか。

■参考文献
武藤正樹著、『ササッとわかるジェネリック医薬品』、講談社、2007年

瀬川 博子(せがわ ひろこ)
国際基督教大学教養学部理学科卒。日本ロシュ研究所(現・中外製薬鎌倉研究所)勤務を経て、日経BP社に入社。雑誌「日経メディカル」編集部で長年にわたり、医学・医療分野、特に臨床記事の取材・執筆や編集を手がける。現在は日経メディカル開発編集長として、製薬企業の情報誌など医師向けの各種媒体の企画・編集を担当。