八子 知礼/デロイト トーマツ コンサルティング シニアマネジャー

過去3回にわたって,日本の通信業界の世界展開には,アジア広域通信委員会や企業向けモバイル・データ通信,映像コンテンツの配信プラットフォームなどが重要になることを述べた。今回は,それを踏まえたうえで携帯端末の動向に目を向ける。ポイントは「電話」発想から脱却したスマートフォンだ。

(日経コミュニケーション編集部)

 モバイル通信では,音声からデータ通信への加速が著しい。データ通信でも,リッチな映像コンテンツやマッシュアップされたWebサービスをモバイルから利用する傾向が強くなっている。

 そんなときに重宝するのが,大画面・高機能なスマートフォンだ。以前はカナダのリサーチ・イン・モーション(RIM)の「BlackBerry」や台湾HTC製をはじめとするWindows Mobile機が主流だった。これらに加えて,米グーグルのAndroid 1.5が2009年4月にリリースされてから,スマートフォン市場がにわかに活気づき始めた。

各社から続々と登場したAndroid機

 2008年秋に米T-モバイルUSA向けにHTCが投入した世界初のAndroid機「G1」以降,Android機の話題はしばらく鳴りを潜めていた。それに代わって気を吐いていたのが米アップルの「iPhone」だ。モバイル広告大手の米AdMobの直近データによると,2009年6月の「iPhone 3GS」登場後,スマートフォンからのインターネット・トラフィックの54%をiPhoneが占めるほどになっているという。

 しかし海外市場では,Androidのバージョンが上がるたびに最新バージョンの搭載モデルが発表されるなど,次第にAndroidに対する期待感が高まっていった。特に2009年9月以降は,Android 1.6搭載スマートフォンが一挙に登場。T-モバイルが米モトローラ製「CLIQ」を,米スプリント・ネクステルが「HTC Hero」を,米ベライゾン・ワイヤレスがモトローラ製「DROID」,「同 ERIS」をそれぞれ投入している。

 さらに,採用事業者は未定だが米デルの「mini3」,台湾エイサーの「Liquid」,英ソニー・エリクソン・モバイル・コミュニケーションズの「XPERIA X10」など多様なAndroid端末が登場しつつある。もちろん東芝の「X02T」,シャープの「HYBRID W-ZERO3」といったWindows Mobile 6.5搭載機も出ており,Androidだけではない激戦状態となっている。

 また,グーグル自身もAndroid 2.1を搭載したスマートフォン「Nexus One」を2010年1月5日に発売した(関連記事)。アップルは,iPhoneで通信事業者との関係を塗り替えた。グーグルも同様に,Nexus Oneやその他の豊富なAndroid搭載端末の魅力で,クラウド・サービスの利用を通じた広告収益の拡大に向け,垂直統合モデルで通信事業者との関係を再構築する可能性がある。

携帯はパソコンと同じ道を歩む

 ここで着目したいのは,これまで「電話」として認識されることの多かったスマートフォンは,iPhoneとAndroidによって,もはや明らかに「コンピュータ」として認識されるべき時代に突入しているという事実である。この事実に気付いていない,あるいは気付いていたとしても,いまだに電話志向の強い日本の通信事業者やメーカーは多いのではないか。実際,自社が醸成してきた固有のアーキテクチャにこだわった電話志向の端末が多い。

 この構図に,過去の記憶がよみがえる技術者も多いはずだ。かつて自社アーキテクチャにこだわった日本メーカーのパソコンは,DOS/V機の登場でことごとく駆逐された。言うまでもなく,モバイル業界にもこの流れが,パソコンがかつて歩んできた道のりよりも速いスピードで到来しているのである。

 iPhoneとAndroidは,コンピュータ業界のプレーヤであるアップルとグーグルがコンピュータの技術・発想で生み出したものである。一方で,特に電話志向の強い日本の事業者とメーカーがいつまでも電話の技術・発想でいれば,ユーザーにとって面白みのない携帯電話としてのスマートフォンを投入し続けることになりかねない。