池末 成明/有限責任監査法人トーマツ TMTグループ シニアマネジャー
鈴木 浩之/ICTラボラトリー 代表取締役
欧州の通信事業者の成功は,欧州の通信機器ベンダーが先導して世界にGSM方式を普及させたことにある。では,世界の携帯電話市場で日本が成功するにはどうすれば良いのか。サービス・ソリューション・ベンダーが企業向けモバイル・データ通信と携帯端末をセットにし,世界進出することだ。
世界の携帯電話加入者数を事業者/事業者グループ別のランキングで見ると,トップが中国移動(チャイナ・モバイル),第2位が英ボーダフォン,第3位がスペインのテレフォニカと続く。
中国の携帯電話市場の動向を見ると,携帯電話の加入者が2008年末に6億3400万を超え,普及率が45%を超えた。2008年に実施された事業者再編の混乱が収まれば,中国の事業者は開発途上国の低所得者層をターゲットに携帯市場を開拓するだろう。また中国移動の「OPhone」による世界戦略の動向も見逃せない。一方,米国の事業者はクラウド技術を中心に世界での動きを活発化させると思われる。
両国の携帯事業者による世界戦略も興味深いが,携帯事業の世界戦略の成功事例を検証する場合,学ぶべきヒントはやはり欧州にある。欧州の主要国の携帯市場は,国内でシェアを食い合う寡占市場である。経済学では寡占を市場の失敗と教えるが,この寡占が欧州の事業者を世界へと向かわせた要因とする説もあるという。
この動向を各事業者グループの加入者数で見てみよう。まずボーダフォンは3億200万,テレフォニカは1億9800万,独ドイツテレコムは1億2800万,仏フランステレコムは1億2200万だ。
そして各グループは,国外で多数の加入者を得ている(前回を参照)。欧州域外の加入者は主に,ボーダフォンとフランステレコムが年間の加入者成長率48%のアフリカで,テレフォニカが同28.7%の中南米で獲得している。
欧州域内3G,域外GSMという戦略
2008年12月末の第2世代携帯電話(2G)のGSM加入者数は約32億で,世界の全加入者数約40億の8割を占める。今でも世界の携帯市場の成長をけん引しているのはGSMで,3Gはまだ発展途上にある。こうした市場動向は自然に生まれたものではなく,欧州事業者の戦略の結果である。
そこで,欧州事業者の地域戦略をプロダクト・ポートフォリオの技法で分析してみよう(表1)。欧州の2Gは,投資が終了した成熟分野で主要な収益源である(左下)。一方,欧州の3Gは激しい競争市場だ(右上)。ボーダフォンとテレフォニカのように設備を共有し,投資とメンテナンス費用を抑制しているケースもある。この段階で発生する投資不足を回避し,3Gを「花形商品」(左上)に向かわせるためだ。
現状の花形商品は,アフリカや南米などで展開している2Gである(左上)。欧州事業者は,地球上の距離をライフサイクルの時間のズレと認識し,2Gという“枯れた技術”で収入の維持を図っていると言える。
機器ベンダーが切り開いた世界市場

欧州事業者のGSMによる成功の背景を,デロイトのコンバージェンスの3階層モデルで解釈してみよう(図1)。通信機器ベンダーは,欧州域内で標準化の覇権を競った後,多様な組織を連携させ,欧州域内の国境を越えて活動する欧州人のニーズに応える大義を掲げてGSMを生み出した。
その後,通信機器ベンダーは世界の通信事業者のネットワーク構築をリードし,続けて欧州事業者が世界に進出した。このように欧州事業者の国際携帯市場への進出の背景には,欧州の通信機器ベンダーの活躍があった。