クラウドコンピューティングが注目を集めている。だが、企業情報システムを安心して委ねられるだけの基盤になるためには、クラウドを実現するテクノロジと、クラウドから生まれるサービスの双方が歩調を合わせ、社会のニーズに応えなければならない。両者の間にある“素敵な関係”について、日本発でクラウドビジネスに臨むブランドダイアログの二人の取締役が解説する。今回は、森谷武浩 取締役CTO兼SaaS/クラウドR&D本部長が、グリッドテクノロジについて、その過去・現在・未来の流れに沿って紹介する。

実は身近な存在になっているグリッド

 グリッドコンピューティング(以下グリッド)という単語が、昨今のクラウドコンピューティングのように世間を賑わせていたのは2000年前後のことである。各社がこぞって参入し、国内外を問わず新しいグリッドミドルウエアが誕生した。世界中のPCをネットワーク化しボランティアベースで宇宙人を探そうという「SETI@home」なども登場した。グリッドは、インターネット誕生前夜と変わらぬ衝撃を期待されていた。

 それが今や、クラウドのという新しい言葉を前に、グリッドは“風前の灯”のような印象さえ受ける。インターネットで「グリッド」というキーワードで検索しても、出てくるのは「スマートグリッド」という電力関連の話題ばかりである。グリッドはもはや、過去の遺物になってしまったのだろうか?

 結論から言えば、「グリッドはより身近になった」だけである。2010年を生きる私たちは、グリッドの技術をクラウドというキーワードの中で、知らぬ間に有効利用しているのだ。その具体例が、当社が運営する無償のSaaS(ソフトウエアアズアサービス)型グループウエア「GRIDY」のバックエンドとして利用しているインフラ基盤である(図1)。

図1●無償グループウエア「GRIDY」はグリッド基盤を使って提供される
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 同インフラ基盤には、約1万台のPCが接続されている。そのグリッド環境が提供できる現時点での最大計算処理能力は約1テラFlopsである。一般的には1.5テラFlops以上がスパコンと言われているようだ。そこには毎日、数十台ずつの新しいPC資源(GRIDYの利用者が所有するPC)が追加されている。

元々は電力網を指していたグリッド

 しかし、10年前を知らない、あるいは当時グリッドに関心がなかった人にすれば、グリッドとはそもそも何なのか?といった疑問を持つことだろう。ここで少し、グリッドがどんなところで応用されているのか?私たちにどんな恩恵をもたらし、どのように発展し得るのか?といったことを考えてみよう。

 グリッドという単語は元々、「電力網」を指していた。つまり、網のように巡らされた電力線が、あたかもグリッド(格子)のように見えたからである。そのグリッドを伝わってきた電力が、コンセントにプラグを挿せば供給され、PCが動きテレビが映る。何のことはない、日常の風景である。

 ただ、よくよく考えてみれば、私たちはその電力がどこからやって来たのかを全く意識していない。どこの発電所で作られようが、火力だろうが原子力だろうが、とにかく意識することなく、プラグをコンセントに挿しテレビを見ている。水道やガスも同様だ。水源地やら蛇口の形などにかかわらず、とにかく使いたいときに使いたいだけ使える。