経営者が求めるコスト削減

 企業において、経営者のコスト削減要求はまだまだ厳しい。インターネットでもIT(情報技術)コスト削減に関する検索数は300万件を超えており、その事例や具体的な方法を求めている様子がうかがえる。

 情報の多くを見ると、この機をビジネスに生かそうというサーバー統合の提案やら、コンサルティング・サービスやらが目白押しである。情報サービス産業関係者の話では、情報システムの新規開発案件が大幅に落ち込んでおり、今期の売り上げ実績が20~30%減という企業が多い。情報システムの運用サービスを中心に事業展開している企業の売り上げ減はそれほどでもないようで、ユーザー企業は新規開発を先送りし、必要不可欠な保守と運用にコスト配分をしていることが分かる。

 リーマンショック以後の需要の落ち込みはすさまじく、特に製造業は連鎖的な不況に突入した。年を明けて2010年になってからの消費傾向は一段と沈滞してきているように感じられる。飲食業では忘年会は活況だったが新年会は落ち込んだというし、ヘアサロンは客がめっきり減ったという。エコポイントや減税、定額給付金で消費を喚起したものの、先行きの不透明感が消費マインドを冷やしている。お隣の中国だけが元気で、GDP(国内総生産)世界第2位になるのも秒読み段階である。

 このような経済環境で経営者が求めているコスト削減は、半端なことを言っているのではない。30%、50%というレベルでのコスト削減を求めているのだ。それには構造的な改革を伴うコスト削減活動が必要である。インターネットに載っているコスト削減提案はちまちましたものばかりで、経営者の要求には応えられない。それも必要であるが、大なたを振るってからのことでいい。

木を見ると、枝葉が気になる

 「木を見て森を見ず」は細かいことに目を奪われて大局観を失うことであるが、コスト削減では重要な視点である。木を見始めると、枝葉が気になってくる。枝葉末節までが気になる。枝葉末節とは本質から離れた些末なことを言う。パソコンの電気料金に目を奪われるより、パソコンの調達を見直した方がいい。プリンターの用紙代に目を奪われるより、印刷が必要ないワークスタイルを考えたほうがいい。空調料金を気にして温度設定を高め・低めにするくらいなら、快適な環境で定時退社する業務改革を進めたほうがいい。抜本的なコスト削減をしようとするなら、木を見ずに、まず森を見ることだ。

 ITの森を見れば、肥大化した森が見えることだろう。木は間引かなければ育ちも悪く朽ちていく。朽ちた木(=使われていない情報システムなどのムダ)がたくさん見えるだろう。作る視野からは見えなくなっているような、既に枯れた木に栄養を与え続けても仕方ない。IT利活用の視野から見れば、朽ちた木は伐採したほうがいいと分かるはずだ。枝葉を落とすことも大切だが、朽ちた木や倒木を片付けなければ植林も効果がない。改革的なコスト削減を行うには木を見ないで森を見ることから始めなければならない。