KDDIの携帯電話サービス「au」は,同社の利益の大半を生み出す中核事業である。その携帯電話サービスを支えるインフラは,IP化および次世代ネットワークへの統合という転機を迎えようとしている。その要となるIMSの本格運用に向け,準備を整えている。

他事業者よりも遅くスタートするLTE

 同社の現行の携帯電話サービスは,第3世代(3G)携帯電話サービスの一つ「cdma2000」である。cdma2000は,主に音声通話向けの回線交換方式による狭義のcdma2000と,高速データ通信向けのパケット交換方式「cdma2000 EV-DO」の2方式に分けられる。基地局は2方式で共用するが,コア側は別に作られている。

 EV-DOは,音声通話に適した仕様として作られたcdma2000では高速なデータ通信が難しかったため,データの送受信に最適化した拡張仕様として作られた。当初は「evolution-data only」の略と言われていたが,現在は「evolution- data optimized」の略とされている。また標準規格では「HRPD」と呼ばれる。

 EV-DOにはいくつかの世代があり,無線部分の速度が異なる。最初のEV-DO(Release 0)は下り最大2.4Mビット/秒,続くEV-DO Rev.Aは下り最大3.1Mビット/秒である。さらに次世代のLTEまでのつなぎとして,Rev.Aで三つのキャリア(搬送波)を束ねて下り最大9.3Mビット/秒の速度を実現する「マルチキャリアRev.A」を2010年秋に開始する予定だ。

 その後に導入するLTEはOFDMAMIMOという通信方式を利用し,下り最大約86Mビット/秒もの高速通信を実現する。導入の動機は,増加するトラフィックを収容し,周波数の利用効率を上げてビット単価を低減するというものだ。

 LTEは,GSM/W-CDMAの次世代版という位置付けで,いずれの標準化も3GPPが手がけている。このため,3G携帯電話としてW-CDMAを採用している携帯電話事業者は,その後継方式としてLTEを選択した。

 これに対し,KDDIが採用しているcdma 2000の次世代版規格として,「UMB」(ultra mobile broadband)が3GPP2の手で標準化されていた。KDDIとしては,UMBとLTEのどちらを採用するか長期間検討を進めていた。しかし,同じcdma2000を採用していた米ベライゾン・ワイヤレスが次世代方式としてLTEを採用するなど,LTEが事実上の世界統一規格になるのが確実となった。こうした動向を考慮し,KDDIも最終的にLTEを選択した。

 KDDIがLTEを開始するのは2012年12月である(図1)。NTTドコモの2010年12月,イー・モバイルの2012年7月と比べて後発となる。同社がLTE向けのメインの帯域として使う800MHz帯の再編作業の完了を待つ必要があるからだ。800MHz帯は現在,KDDIとNTTドコモに割り当てられているが,その割り当て方が細切れになっている。それらを再編し広い帯域を利用できるようにする作業である。

図1●KDDIの携帯電話サービスの開始予定<br>LTEの開始時期は2012年12月と遅く,それまでは複数のキャリア(搬送波)を束ねて速度を上げる「マルチキャリアRev.A」でつなぐ。IMS化は,まず既存のcdma2000の回線交換網から進めていく。LTEをサービス開始当初からIMSベースにするかどうかは検討中。
図1●KDDIの携帯電話サービスの開始予定
LTEの開始時期は2012年12月と遅く,それまでは複数のキャリア(搬送波)を束ねて速度を上げる「マルチキャリアRev.A」でつなぐ。IMS化は,まず既存のcdma2000の回線交換網から進めていく。LTEをサービス開始当初からIMSベースにするかどうかは検討中。
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