KDDIの次世代ネットワーク構想の原点は,2005年に発表した「ウルトラ3G」である。2007年には,ウルトラ3G構想を基に,固定・移動・放送を融合した新サービス構想「FMBC」(fixed mobile and broadcasting convergence)を打ち出した。最近では,ウルトラ3GよりもFMBCが表に出てくる機会の方が多い。

 KDDIの次世代ネットワーク構想の特徴は,(1)移動と固定を含む多様なアクセス回線,(2)IPとIMSで統一したインフラ──という2点にまとめられる。

 (1)の背景には,固定アクセス回線と移動アクセス回線の両方を持っているKDDIの強みを生かす狙いがある。固定と移動が別の事業会社に分かれているNTTグループに対し,これは明らかに有利な点だ。

 本音のところでは,固定アクセス回線の弱みを移動アクセス回線で補いたいという意図がある。「我々とNTTの大きな違いは,自前で持つアクセス回線だ。移動アクセス以外の固定アクセスでは,NTTの存在感が強いのに対して我々は非力だ。となると,多様なアクセス方式を組み合わせて対抗するという発想にならざるを得ない」(KDDI技術統括本部の渡辺文夫ネットワーク技術本部長)。多数のアクセスで大きな加入者ベースを確保するとともに,アクセス非依存のサービスを生み出していくのが最終的な目標だ。

アクセスの違いで構築手法に特徴

 (2)のIPとIMSは,(1)のアクセス回線の多様性の実現手段という位置付けになる。アクセス方式に依存しないネットワークを作る手段として,IPは事実上唯一の選択肢と言える。また,IPネットワーク上で音声通話やマルチメディア・サービスを実現する基盤としてIMSを採用するのも,世界的な流れに乗ったものである。

 IPとIMSの採用は,NTT東西が構築したNGN(次世代ネットワーク)のインフラ(以下NTT-NGN)と共通している。しかし,その具体的な構築手法を詳しく見ていくと,両者にはいくつもの違いがある(図1)。

図1●KDDIの次世代ネットワークとNTT-NGNとの対比<br>KDDIの次世代ネットワークとNTT東西のNGN(NTT-NGN)を比較した。
図1●KDDIの次世代ネットワークとNTT-NGNとの対比
KDDIの次世代ネットワークとNTT東西のNGN(NTT-NGN)を比較した。
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 IMSについては,KDDIは移動アクセスを中心に,携帯電話システムの標準化団体である3GPPが策定した仕様を採用する。これは,「IMSベースのアプリケーションが最初に必要になるのは移動アクセス」と見るからだ。一方,固定アクセス回線だけを持つNTT東西は,あくまでITU-Tが策定した固定通信向けのNGN標準のIMSをベースとしている。

エッジには機能を持たせない

 コア・ネットワークのエッジ(アクセス網との境界)における通信制御手法にも,大きな違いがある。NTT-NGNではセッション単位で通信を制御し,KDDIの次世代ネットワークではサービス単位で通信を制御する。

 NTT-NGNの通信制御は,エッジに置いたルーター(サービス・エッジ)において,セッション単位で実施する。これはITU-T標準で定められた「RACF」という仕組みを使っており,「CSCF」がルーターに対し,音声や映像などのセッションごとに帯域確保の指示を出すというものだ。その指示に従ってルーターは,個々のユーザーが通信するたびに確立するセッションに対して,必要な帯域を割り当てる。このため,サービス・エッジには高性能のルーターが必要となる。

 その一方でコア・ネットワークの内部では,IPパケットを単純な優先制御だけで転送する。高性能なエッジによるセッション単位の制御を生かしたサービスは,現時点では既存サービスとの違いを出せていない。しかし,将来的には新サービスを開発できる可能性を持っている。

 こうした構成は,ITU-TのNGN標準に沿った実装だが,これを可能にしたのは,NTT-NGNのアクセスをFTTHに絞り,あたかも一体のサービスとして展開しているからだ。アクセスを1種類にしたことで,複雑なサービス・エッジも仕様を合わせ込んで開発できる。