情報システムの“ユーザー企業”にとって、情報システムをどう活用すれば競争力を強化できるのか。ITベンダーやシステム・インテグレーターなどの営業トークや提案内容を見極めるうえで何に留意するべきか。ITベンダーなどに何かを求める以前に、“ユーザー企業”が最低限考えなればいけないことは何か――。

 野村総合研究所で約20年間勤務した後に、人材派遣大手スタッフサービスのCIO(最高情報責任者)を務め急成長を支えた著者が、情報システムの“ユーザー企業”の経営者・担当者の視点から、効果的な情報化のための発想法を解説する。

 第9回から前回(第14回)にかけて、「景気変動の影響を大きく受ける業種・業態の“ユーザー企業”」に焦点を当て、情報化の発想法を説明してきました。今回から、「成長企業」に焦点を移します。成長性の高い中堅企業、あるいは、大企業であっても成長性の高い事業部門が考えるべき情報化について考えてみたいと思います。

欠点をカバーすれば個性も消える

 事業の評価は収益性と成長性の2つで決まります。収益を生まなければ企業は倒れてしまいますから、収益性は事業存続のための必要条件です。一方で成長性は、それ自体が低くても企業は存続できるものの、その強弱によって組織の性格は様変わりします。

 成長期にある企業は成長期にある人間と同じような印象があります。勢いと可能性に満ちているのです。逆に成長が見込めない企業は、たとえ高収益だとしても、スピード感や魅力には乏しいかもしれません。現在の日本では多くの分野が様々な意味で成熟しており、成長企業の存在は希少です。成長企業は、成熟した企業から見れば欠点だらけかもしれません。しかし、成長企業には成長の要因となる強い個性が内在します。このことは、将来の可能性を秘める若者には、欠点が多々あるとしても際立った個性があるのに似ています。

 ダメな“ユーザー企業”は、情報システムを活用することで自らの欠点をカバーしようとして、こうした個性、すなわち独自の競争要因を殺してしまいます。急成長を続ける中堅企業が「これからは情報システムの整備が重要だ」と考えて大企業から情報システム経験者を中途採用することはよくあります。