KDDIの次世代ネットワークの中核を構成するのは「統合IPネットワーク」である。「統合IP網」とも呼ばれている。商用稼働は2007年10月。この時点から,既存のCDN(KDDIのネットワーク・インフラ)上のトリプルプレイ・サービスやIP-VPNの移行を開始した。移行作業は,2010年3月に終える予定だ。

MPLSの採用動機は耐障害性

 統合IPネットワークの基本的な設計コンセプトは「信頼性の向上」である。基本技術の選択,導入の準備,ネットワーク構成など,徹底して信頼性を高めることを目指している。

 まず構築作業の過程で信頼性向上が図られている。統合IPネットワークの構築自体は,商用稼働の1年前の2006年に完了していた。試験環境ではなく,商用サービスに実際に使うネットワークで,約1年をかけて検証した。実際に大規模な環境でないと分からないバグがあるからだという。「最終的には全サービスが載るため,信頼性は非常に高いネットワークでなければならない。そこで通常のネットワークを構築するよりも,かなり入念に検証した」(KDDI)。

 統合IPネットワークのための基本技術として,KDDIはMPLSを採用した。これまでは主にIP-VPNのインフラや広域IXといった法人・通信事業者向けサービスのインフラとして採用されてきた技術だ。MPLS採用の理由は,「信頼性を確保するのに必要な機能を備えていたから」(KDDI)と説明する。MPLSは「パス」と呼ばれるIPパケットの転送経路を固定的に設定できる。このため,障害が発生しても経路の再計算などの処理が発生せず,通信が途絶する時間を最小限に抑えられる。

 一方,純粋なIPネットワークの場合,回線に障害が発生すると経路の再計算に時間がかかる。ネットワークの規模やルーティング・プロトコルにもよるが,数秒~数分のオーダーで通信が途絶する恐れがある。また,ルーターの処理能力がすべて経路の再計算に割かれて,全く通信ができなくなる「メルトダウン」という現象が発生する可能性がある。こうした事態を避けるには,MPLSの導入が効果的だと同社は結論付けたのだ。

4階層構造を採るKDDIのインフラ

 統合IPネットワークを中心としたKDDIの次世代ネットワークのインフラは,ツリー状の4階層構造を採っている(図1)。上位から,第1層の「SIN」(service integration node),第2層の「SCN」(service control node),第3層の「MSE」(multi service edge),第4層の「AS」(aggregation system)──で構成されている。各ノードをツリー構造に配置することで,障害の影響が及ぶ範囲を把握しやすくするという狙いがある。

図1●KDDIの次世代ネットワークの全体像<br>取材や標準仕様などに基づいて本誌が推定。4階層の構造になっている。上位の2階層が統合IPネットワークを構成している。下位の2階層は,将来的には光ネットワークのインフラに置き換えていく考えである。
図1●KDDIの次世代ネットワークの全体像
取材や標準仕様などに基づいて本誌が推定。4階層の構造になっている。上位の2階層が統合IPネットワークを構成している。下位の2階層は,将来的には光ネットワークのインフラに置き換えていく考えである。
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 最上位のSINは,全国を縦断するバックボーンを構成するノードである。第2層のSCNは,各地域の様々なサービスを収容し,SINのノードに伝える役割を果たす。統合IPネットワークの本体は,これらのSINとSCNで構成される。

 これらのノードはMPLSルーターで,基本的にはレイヤー3で動作する。これらをつなぐ伝送技術としては,現在はSDHをベースにした従来型を採用している。古い伝送装置はWDMベースのものに置き換えている。また,伝送技術について,現在は10Gビット/秒を採用しているが,将来的には40Gビット/秒あるいは100Gビット/秒の伝送技術を採用していく。さらにKDDI研究所は,伝送距離を延ばし,波長多重数を増やす100Gビット/秒の伝送技術を開発している。

 第3層のMSEは,配下の各アクセス回線上にあるサービスを束ねる役割を果たす。さらに第4層のASはアクセス網である。第3層と第4層は,将来は光をベースにしたレイヤー2技術でまとめる考えだ。