◆今回の注目NEWS◆

全国初、長崎県が「自治体クラウド」を県外にも提供へ(ITpro、1月13日)

【ニュースの概要】 長崎県は2010年1月13日、同県が運営している「自治体クラウドサービス」の今後の展開方針を発表した。県内の自治体だけでなく、県外にも提供し全国展開を目指す。「自治体がクラウドサービスを提供するのは長崎県が初めてであり、県外への提供も全国初」(長崎県総務部 情報政策担当 島村秀世氏)という。

大分と宮崎の自治体クラウド、構築ベンダーは地元ITサービス企業2社に(ITpro、1月14日)

【ニュースの概要】 大分県と宮崎県は2010年1月14日、自治体クラウド開発実証事業のシステム構築の委託先として行政システム九州・OLGO共同企業体を選定したと明らかにした。この共同企業体は福岡県のITサービス企業である行政システム九州と、大分県のITサービス企業である大分県自治体共同アウトソーシングセンターのジョイントベンチャーである。


◆このNEWSのツボ◆

 長崎県が自治体クラウドを県外展開する方針を発表したり、大分県と宮崎県が共同でクラウドによる行政アウトソーシングのセンターを構築したり、自治体におけるクラウドの利用が加速している。

 これは、総務省が昨年8月に「政府情報システムの整備の在り方に関する研究会」の報告を取りまとめ、霞が関(政府)・自治体のクラウド利用に本格的に取り組むことを公表したころから加速した現象である。

 霞が関や自治体に限らず、世の中はクラウドブーム真っ盛りである。ただ、霞が関や自治体のクラウド構想を聞いていると、少し疑問を感じるところがあるのも事実である。

 もともと「クラウド技術の神髄がどこにあるのか」を考えてみると、要するに
 ・インターネットの普及と高速・大容量化
 ・情報処理における分散化・並列化・仮想化といった技術進歩
によって、巨大なデータベースやサーバーシステムを自前で持たなくとも、インターネットの向こうにあるシステムを必要な量に応じて、必要な時に使うことができるようになったということではないか。つまり「巨大なシステムを保有せずとも、使いたいときに使いたいだけのITリソースの利用が可能になったと言うことである。

 これは巨大な数の顧客にWebサービスなどを提供する会社(アマゾンやグーグル、楽天)では、必要なデータベースやWebサーバーといったITリソースのボリュームが巨大で、必要な投資額も膨大となるために、できるだけITリソースの有効利用を図ろうという目的から発達した技術である。実際に、これらの企業はクラウドサービスの提供企業としても世界の先頭を走っている。

 確かに、巨大な初期投資をしなくても「使いたいときに使いたいだけのITリソースが使え、利用時間に応じた課金を払えばよい」というのは魅力的である。しかし、クラウドコンピューティングには、問題もある。それは、ユーザーが使う、あるいは保有するデータやシステムも「雲の向こう」に行ってしまうということである。

 考えてみていただければすぐ分かると思うが、ある企業が自社の人事給与や販売管理システムでクラウドを利用したとしよう。そのシステムはこの会社の保有ではないし、データもサービス提供者のサーバーの中にある。では、仮に、このユーザー企業が今のシステムに満足がいかなくなって、新しいベンダーのサービスに乗り換えようとしたときに、システムの構造も分からない、データも手元に無い状態で、十分な交渉力がもてるだろうか。ある意味、非常にベンダー変更が難しかった昔のメインフレームシステム以上に乗り換えには困難が発生するだろう。

 そういう意味で、クラウドコンピューティングは非常に有用な技術であるが、ユーザーにとって「両刃の剣」の側面があることも事実である。こう考えたときに、自治体の行政システムのうち、クラウド利用が適切なものが、どれだけあるのか。必ずしも疑問がないとは言えない。

 ましてや、行政が保有する機密度の高いデータが「インターネットの向こう」に行くのである。住民基本台帳ネットワークのときにあれだけ大騒ぎをしたのに、今回はその点の議論は希薄なように思われる。クラウドの「優位性」を十分に活用した行政クラウドが構築されるために十分な検討を望みたい。

安延 申(やすのべ・しん)
フューチャーアーキテクト社長/COO,
スタンフォード日本センター理事
安延申

通商産業省(現 経済産業省)に勤務後,コンサルティング会社ヤス・クリエイトを興す。現在はフューチャーアーキテクト社長/COO,スタンフォード日本センター理事など,政策支援から経営やIT戦略のコンサルティングまで幅広い領域で活動する。