プロジェクトマネジャ(PM)のAさんは、上流工程のリーダーになる予定のBさんの様子を気にしていた。Bさんは別のプロジェクトにいて、担当業務は終えていたものの、顧客の苦情対応係の役割を果たしており、なかなか抜けられない。Aさんは、メンバーのアサインをしている部長に、「Bさんに参加してもらわないと、納期順守は保証できない」と伝えたが、部長は何もせず、Bさんの参加は1カ月も遅れた。Aさんは仕方なしに、別のメンバーに要件定義を担当させたが、顧客の要求の認識違いが続出、プロジェクトは大きく遅れた。責任を問われたAさんは、「Bさんを動かさなかった部長に責任がある」と反論した。

 多少、脚色しているが、ほとんど実話である。あなたがAさんだったら、どう対処しただろうか。手を打たない部長を見過ごしていてよいのだろうか。

 このような悩みに直面したときに、読んでほしいのが本書である。上記のようにリーダーシップを発揮しない部長がいた場合、部下のPMが部長の行動に介入し、リーダーらしい行動に導く「フォロワーシップ」が必要になる。部下が上司の行動に介入するのは、勇気のいることだ。著者のチャレフは、その点を見通し、「勇敢な(Courageous)フォロワーシップ」を発揮するにはどうすればよいかを解説している。

 チャレフによれば、組織は、共通目的とリーダーシップとフォロワーシップからなる。そのなかで、フォロワーシップの価値は、リーダーと組織が共通目的を追求することを、どれだけ手助けするかによって決まる。

 そのためにフォロワーは、リーダーと対等な立場にあることを認識し、「責任を負う」「リーダーに仕える」「異議を申し立てる」「変革に関わる」「道義的な行動を起こす」という五つを行う必要があるという。

 この本の売りは、リーダーとフォロワーは役割だとし、フォロワーシップを平社員と上司の関係だけに限定せず、組織のあらゆるレベルで通用するものだとしている点にある。今の日本にフォロワーシップが求められる理由はここだと思う。ミドルマネジャ、ジュニアマネジャの弱さが組織の弱さになっていることが多い。そのような組織にいる人たちが本書を読み、適切なフォロワーシップを発揮されることを望みたい。

評者:好川 哲人
神戸大学大学院工学研究科卒。技術士。同経営学研究科でMBAを取得。技術経営、プロジェクトマネジメントのコンサルティングを手掛ける。ブログ「ビジネス書の杜」主宰。
ザ・フォロワーシップ

ザ・フォロワーシップ
アイラ・チャレフ著
野中 香方子訳
ダイヤモンド社発行
1890円(税込)