米New York Times紙の朝刊に掲載された論評記事「米Microsoftの『創造的な崩壊』」を読んで驚いた。同社の元幹部が寄稿した記事であるとすぐ分かったので、だれが書いたのか知ろうとまず署名欄を探した(筆者はこの記事を米Amazon.comの「Kindle」で読んでいた)。

 記事を書いたのはDick Brass氏という人だが、一体何者なのだ。筆者はこの名前に全く記憶にない。そこで米メディアZDNetのブロガーMary Jo Foley氏と電話で話したものの、判明するまでかなりの時間を費やした。その結果、10年近く前のタブレットPC関連イベントで何回かBrass氏に会ったことを思い出した。ただし、同氏は6年弱前にMicrosoftを去っている。

iPadを持ち上げ続けるメディアに乗せられたもの

 同氏は、なぜ今ごろになってMicrosoftの内情を暴露したのだろうか。もちろんその理由は、米Appleがつい先日発表した例の「iPad」にある。現時点のiPadにコンピューティングの変革者となる力はないが、主要メディアは正式発表前からうわさをあおってきたので、その立場を正当化するためiPadに好意的な報道を続けざるを得ないのだ。

 なお今回の騒ぎで最も面白いのは、MicrosoftがBrass氏の指摘した中心的問題に反論したことである(例えば同氏は「Microsoftはすっかり丸くなり、才気にあふれ、迅速に行動するライバル企業と競えなくなった」と批判した。6年前にMicrosoftを辞めた人物ならではの意見だ)。

 これに対しMicrosoft副社長のFrank Shaw氏は同社の公式ブログで「(Brass氏の見解には)当然同意できない。当社では、世界によい影響をもたらせるかどうか、という観点でイノベーションを評価する。『よいアイデア』や『見事なアイデア』というだけでは不十分だし、『クールなアイデア』であっても合格ラインに達しない。我々は、もっと大きな影響力を判断基準にしている」と主張した。

 Shaw氏の反論そのものは納得できる。だが問題は、Microsoftで「クールなアイデア」の製品化計画が承認されるまでに17段階もの競争を勝ち抜く必要がある点だ。そして製品化が決まったころには、Appleや米Googleが新たに生まれた市場を支配し終えている。つまり、Microsoftがチェンジすべき状況にあることは事実だろう。