月刊ビジネス誌『日経情報ストラテジー』と東京コンサルティングが共同で事務局を務める「オールジャパン競争力強化実行委員会」は、情報システムユーザー企業のCIO(最高情報責任者)が、情報システム提供企業に対して抱く疑問を「CIO公開質問状」として質問した。クラウドサービスを提供するIT(情報技術)ベンダー主要8社が公開質問状に回答した。本記事では、日立製作所でクラウド事業を担当する香田克也情報・通信グループ経営戦略室事業戦略本部本部長の回答を掲載する。

質問1:「クラウド」の定義

Q:貴社における、対外的に公表している「クラウド」「クラウド・コンピューティング」の定義について確認したい。

A:大幅に拡張可能なコンピュータ環境をネットワーク経由でサービスとして利用するスタイル。

 日立製作所では「クラウド」を、大幅に拡張可能なコンピュータ環境をネットワーク経由でサービスとして利用するスタイル、だと定義している。基本的にはIT(情報技術)関連の調査会社である米ガートナーの定義に沿っている。

 クラウドの世界では、アプリケーションやITリソース(資源)がサービスとして提供される。ITの「所有」から「利用」への転換や、拡張可能(スケーラブル)なリソース、必要に応じた「オンデマンド」サービスの提供、といった特徴がある。

 日立では、クラウド関連サービスを大きく3つに分けている。プラットフォームリソースをサービスとして提供する「ビジネスPaaSソリューション」、アプリケーション機能サービスとして提供する「ビジネスSaaSソリューション」、顧客企業内でクラウドシステムを構築・運用する「プライベートクラウドソリューション」の3つだ。これらを適材適所で提供していく。

 ただし当面の間は、3つ目の「プライベートクラウド」の比率が大きくなると考えている。

質問2:他社に比べた優位点

Q:貴社が提供するクラウド関連サービスで、他社に比べて優れているのはどんな点か。

A:クラウド環境でありながらリソース占有など高度な機能を提供し、「信頼性のあるクラウド」を作れること。

 日立には、長年お客様のシステム構築・運用で培ってきたシステム・インテグレーションの実績がある。特に、サーバー製品や運用管理ツールで信頼性の高いものを持っている。これらをクラウド環境に取り込むことを差異化のポイントとしている。「信頼性あるクラウド」というのが我々のビジョンだ。

 例えば、サーバー仮想化機構の「Virtage」という製品がある(関連記事)。この製品の占有割り当て機能を活用すれば、利用者がコンピュータのCPU(中央演算処理装置)、メモリー、入出力装置などを独占的に利用する環境を提供できる。

 一般にクラウド環境では、多数の利用者がリソースを共有して、リソースの奪い合いが起きる。そのため、大量のデータ処理をする場合に終了予定時刻が分からないことがある。Virtageの機能を使えば、終了予定時刻を正確に見積もれる。クラウド・コンピューティングでありながら、従来の「ホスティングサービス」などに近い状況を作れるわけだ。

 サーバー仮想化ソフトとしては、米VMware社の製品などが有力だ(関連記事)。こうした既に多く使われている他社製品を我々は否定するわけではない。しかし、広く普及している製品を使うだけでは優位性を保てないので、我々はVirtageなど独自開発製品の性能をアピールしていく。

次回に続く


回答企業8社一覧


回答者:香田克也(こうだ かつや)氏
日立製作所 情報・通信グループ経営戦略室事業戦略本部本部長

1984年日立製作所 ソフトウェア事業部入社。2004年からソフトウエアの設計、事業企画を担当し、2007年から情報・通信グループ経営戦略室にてプラットフォーム事業戦略を担当。現在はクラウドや情報・電力融合事業戦略を担当。

オールジャパン競争力強化実行委員会とは

 情報システムの有力ユーザー企業18社のCIO(最高情報責任者)およびCIO経験者で構成する組織。IT(情報技術)ベンダーに対して、CIOの率直な疑問を「CIO公開質問状」として発信する活動を展開。CIO側の疑問の理解と、ITベンダー側の改善努力を促し、IT活用を通じた日本企業の国際競争力向上につなげることを目指す。

 事務局は、月刊ビジネス誌『日経情報ストラテジー』編集部と、東京コンサルティング代表の石堂一成氏が共同で務める。それぞれ、CIOが参画する中立的な勉強会である「日経情報ストラテジー CIO倶楽部」と「CIOネットワーク・ジャパン」を主宰している。この2つのコミュニティーに所属するCIOを中心とする18社で委員会を構成する。

メンバー企業名(50音順):
旭化成、オムロン、オリックス、カシオ計算機、サントリーホールディングス、JFEスチール、新日本石油、住友電気工業、セブン&アイ・ホールディングス、損害保険ジャパン、電通、東京ガス、東芝、トヨタ自動車、パナソニック、富士ゼロックス、三菱ケミカルホールディングス、森永乳業