標準化の進め方を一歩間違えば、事業部門から大きな反感を買う――。標準化の内容そのものが重要なのは当然として、その進め方にも十分な配慮が必要だ。「IT標準への期待・満足度」は、時間の経過につれて変化する。「幻滅期」を乗り越え、成果を手にするための施策を考えていきたい。

クニエ 戦略サポートグループ
鎌田 肇、山本 真

 標準化を推進する過程では、往々にして次のような事態が起こる。

 ある事業部門が新しいビジネス・モデルの検討を終え、システム開発プロジェクトで、業務システムの設計開発フェーズに入ったとしよう。自分たちが思い描くビジネス・モデルを「明日にでも実行したい」という気持ちがあるため、それを実現可能なIT製品やサービスがあるなら、すぐにでも調達して活用してほしいと考えるだろう。

 にもかかわらず、様々な会議の場で、IT部門が「IT標準」をしきりに気にしていたとしたら、どう思われるだろう。IT部門は、より大きな成果を生むためにIT標準を利用しようと苦心しているわけだが、それはなかなか伝わらない。「業務要件よりIT標準を優先させるかのような態度」と受け取られれば、事業部門はIT標準をプロジェクト推進上の「阻害要因」とみなすかもしれない。

 そう、同じプロジェクトで1つのゴールを目指す仲間のはずなのに、事業部門にとってIT部門が「抵抗勢力」と映ってしまうのだ。読者の皆さんも、似たような経験があるのではないか。

 IT部門が「抵抗勢力」とならずにIT標準を推進するには、事業部門の関係者にIT標準に対する理解を深めてもらうための活動が不可欠である。せっかく整備したIT標準なのだから、十分に活用され、期待通りの成果が出るように推進したい。

 今回はIT標準を整備して展開活動を行った結果、十分な理解を得られなかったN社の事例を取り上げ、なぜ標準化が失敗するのかを考えていきたい。この事例では、事業部門出身の情報システム部長が、かつてシステム開発プロジェクトに参画したときの苦い経験を基にIT標準の改定に取り組んだ。しかし、「IT標準に対する事業部門の期待」をうまくコントロールできず、あやうくプロジェクトに支障を来たすところだった(図1)。

図1●標準化に失敗する6つの理由
図1●標準化に失敗する6つの理由