徹底した格安航空会社であるサウスウエスト航空の航空券予約の約7割は、自社のウェブサイトからとなっている。このため、サイトの作りがビジネスの成否を握る。アクセス数は同業他社ではなく、米アマゾン・ドットコムや米イーベイと競っているといっていい。そこで2009年はウェブサイトを中心にした2つの大きな改編を進めている。

 その1つは、ウェブサイトに「トラベルガイド」というコーナーを設けて顧客がコミュニティーを作れるようにして、さらにアクセス数を増やすことを狙った。旅行先の思い出やレストランなどの情報について、写真を張りつけ、コメントを書くことで、サイト利用者同士がつながる。これは春ごろから社員を使って検証を始めたサービスだが、トラベルガイドに書き込まれた情報を参考にして旅先を選び、その結果、旅先でより楽しい経験ができるようになった。さらに書き込みが増えることでサイトの利用頻度が上がる、という好循環を生み出している。

 次のステージとしては、予約や電子発券、空港のチェックインシステムのアプリケーションを敏速化する計画を進めている。今春にiPhoneや携帯電話から簡単に予約ができるモバイルサイトを立ち上げたところ、モバイルでの予約割合が増えてきたためだ。モバイルを使う利用者は、パソコンを使う利用者よりも敏速さを求める傾向がある。

津波のような反響だったツイッターとSNS

ジャン・マーシャル氏
ジャン・マーシャル氏
1971年創業。格安航空会社として「紙の発券をしない」「ボーイング737型機しか使わない」など徹底したコスト削減によって黒字経営を続けている。売上高は米航空会社6位で、1日平均3500便を運航している。本社はテキサス州ダラス。

 ミニブログ「ツイッター」やSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)「フェイスブック」の利用も今年初めて試みたが、津波のような反響だった。夏の休暇シーズン前に、30ドルの格安航空券について、広告は一切使わず、ツイッターとフェイスブックで告知したところ、初日にサーバーが対応しきれなくなるほどのアクセスがあった。解決すべき問題はあるが、大きな可能性を秘めている分野だ。今後さらに活用したい。

 ツイッターは、セールスに使うだけでなく、例えば運航の遅延やキャンセル、預け入れ荷物や忘れ物についてこれでいち早く連絡するなど、顧客とリアルタイムでコミュニケーションができるという利点もある。今年7月13日、飛行中の機体にフットボール大の穴が開いて緊急着陸する事故があったが、この時も顧客や関係者に発生から1時間以内に事故についての情報を発信することができた。幸い死傷者はなかったが、こうした場合は不安な状態にある顧客や家族がテレビなどを介して情報を得るよりも、我々から情報を提供するべきだ。

 こうした新しいテクノロジーの活用について、サウスウエスト航空の経営陣の間では「サービスを向上するために戦略的に必要なものだ」という理解が進んでいる。インターネットが引き起こした変化の大きさと、顧客が新たなテクノロジーに意外にもすぐに反応して慣れるということが分かってきたからだ。

 CIO(最高情報責任者)には2006年9月に就任したが、その数年前から複数に分かれたシステムの統合作業に着手してきた。サウスウエスト航空は短い間に急成長した。しかも、格安航空会社としてコスト削減のためにいろいろな工夫を付け加えてきた。このため、航空機のメンテナンス、運航、乗務員の勤務体制、ウェブサイトなどのシステムがばらばらに育ってしまった。航空機の運航を中断することなく、これらを1つのシステムに統合する必要があったのだ。成し遂げるのは大変な作業だったが、約8年かけて完了した。

 システムの統合に当たっては、常になぜこうするべきなのかと自分たちに問いかけ、利用者となる社員がテクノロジーに使われてしまったり、疎外感を味わったりしないよう気をつけた。

 私はサウスウエスト航空の社風をとても気に入っている。それは、社員や設備を大切にすればおのずと顧客にいいサービスを提供できるという思想である。昨年は「キャッシュレス・キャビン」という機内のハンドセットを導入。クレジットカードで飲料やアルコール類を買えるようにしたら、米国の他の航空会社が次々に追随した。しかし、追随した会社の中には乗務員が取り扱いを拒否してしまうほど使いにくいものもあったと聞く。サウスウエスト航空では約1年前から乗務員と綿密にコミュニケーションを図り、ハンドセットを実際に機内で試してみたうえで、乗務員のトレーニングを一斉にオンラインで行い、全便に1日で一斉に導入できた。乗務員の気持ちを大切にした結果、クレームも無ければ、顧客の利便性も上がったという好例である。

ジャン・マーシャル氏
米サウスウエスト航空最高情報責任者(CIO)
飲料・スナック会社や鉄道会社などで、ソフトウエアやシステムの開発に携わった後、システムコンサルティング会社の米EDS副社長に就任。運輸や流通関係のコンサルティングを担当していた。2006年から現職。4人娘の母