情報システムの“ユーザー企業”にとって、情報システムをどう活用すれば競争力を強化できるのか。ITベンダーやシステム・インテグレーターなどの営業トークや提案内容を見極めるうえで何に留意するべきか。ITベンダーなどに何かを求める以前に、“ユーザー企業”が最低限考えなればいけないことは何か――。

 野村総合研究所で約20年間勤務した後に、人材派遣大手スタッフサービスのCIO(最高情報責任者)を務め急成長を支えた著者が、情報システムの“ユーザー企業”の経営者・担当者の視点から、効果的な情報化のための発想法を解説する。

 前回(第12回)は、「ソフトウエアの柔軟性」という言葉がくせものだと書きました。今回は「景気変動に左右されやすい企業・業界」においてIT(情報技術)・情報システムを活用しようとしている“ユーザー企業”の話題に戻して、これらの企業が「見るべき情報」について考えたいと思います。

 具体的に、私がかかわった人材派遣企業の事例を紹介します。この企業は日本で早期に市場が立ち上がった一般事務派遣の分野で、後発でありながら先行他社を抜き去ってトップに躍り出た企業です。急成長を続けていた時、この企業の経営幹部は「セブン-イレブン・ジャパンのPOS(販売時点情報管理)分析システムのような仕組みで差異化戦略を実現できないか」と考えていました。

仮説・検証には豊富なデータが必須

 「売れた」という情報を基に様々な仮説を立てて、それを情報によって検証するというセブン-イレブンの経営スタイルは大きな差異化につながっています。たとえ同業他社のコンビニエンスストアがセブンの店構えや品ぞろえをまねても、客単価の違いが出て、収益性にも差が出ます。客単価、すなわち1回の顧客の買い物金額の平均値において、セブン-イレブンと他社では差が出ているのです。(関連記事

 この理由は、来店客が「つい買ってしまう」商品が目に付く場所にあるからだと言われています。POSデータを基に、例えば「月曜日の午後8時頃に仕事帰りで立ち寄る20歳代後半の独身サラリーマン男性は、『少年ジャンプ』と焼肉弁当などを購入する際、発泡酒を同時購入することが多かったが、そのうち約半数が飲み物をお茶に変えているのではないか」といった仮説を立てて、さらにこの仮説を検証する方法を考えるのです。

 1万を超える店舗を抱えるコンビニが大量のデータを使って様々な仮説・検証をし、その結果を店舗運営に徹底して反映する。これは効果の大きい差異化戦略で、他社が容易にまねできることではありません。