組み込みソフト開発企業のユビキタスが、情報関連機器の起動時間を1秒程度に短縮する技術の実用化に取り組んでいる。情報端末やデジタル家電などは、“いつでも”使えるように待機電力を消費しているが、その総量は日本だけで年間4800億円に相当するという。瞬時に起動できれば、利用者の使い勝手が向上するだけでなく、待機電力も不要になる。同社の川内雅彦社長は、「省エネや地球温暖化対策に貢献できる技術になる」と意気込む。(聞き手は玉置亮太=日経コンピュータ)

ユビキタスの川内雅彦代表取締役社長
ユビキタスの川内雅彦代表取締役社長

開発中の技術は、どんな技術なのか。

 携帯端末やデジタル家電などの電源投入から起動するまでの時間を短縮する技術だ。「QuickBoot」と呼んでいる。当社が試作したAndroid搭載機器の場合、電源投入から約1秒で起動し、アプリケーションを使える状態になる。一般的なAndroid端末の場合、最短でも10数秒はかかる。

 起動時間を短縮するためにはこれまで、通電状態を保ちながらハードディスクなどを停止したりしてきたが、QuickBootでは、電源を完全に切った状態から起動しても、1秒ほどしかかからない。

QuickBootにはどんな可能性があると考えているか。

 省エネや地球温暖化対策といった社会貢献に、大きなインパクトがあるとみている。一般家庭では、テレビや各種レコーダーの多くが、利用していないときも待機電力を消費している。そのため、日本だけでも一家庭で年間1万円、全世帯では年間4800億円が、ただ待機のためだけに使われている。

 これは、使いたいときにすぐ使えないため、完全に電源を切っているケースはまれだからだ。QuickBootが想定する用途には、携帯電話やネットブックなどのモバイル機器、そしてテレビやレコーダーなどのデジタル家電だ。例えば現在のデジタルレコーダーなどは、起動がとても遅い。ここにQuickBootを使えば、物理的に電源を切ってもすぐに使えるため、待機電力を真にゼロにできる。

 政府は今、高い温暖化ガス削減方針を掲げている。それだけに今後は、家庭や企業はいっそうの省エネを求められるかもしれない。QuickBootという技術なら、利用者の利便性を損なうことなく、快適な操作感と機器の消費電力削減を両立できる。これは、非常に大きな社会貢献になる。

1秒起動を実現する決め手は何か。

 メモリーの読み込み方式だ。起動時に必要最低限のメモリーだけを読み込んでいる。そのために、「Intelligent Resource Allocator(IRA)」と呼ぶ独自のメモリー資源管理プログラムを開発した。当初は5秒で起動できれば十分と考えていたが、改善により1秒を実現できた。

 「1秒」という数字は、世の中に受け入れてもらうためのマーケティング的なインパクトが全く異なってくる。例えば、組み込みエンジニアにとって「Linuxは遅い」ことは常識だ。様々なドライバやGUI(グラフィカルユーザーインタフェース)を伴うと、1秒での起動はあり得ない。