月刊ビジネス誌『日経情報ストラテジー』と東京コンサルティングが共同で事務局を務める「オールジャパン競争力強化実行委員会」は、情報システムユーザー企業のCIO(最高情報責任者)が、情報システム提供企業に対して抱く疑問を「CIO公開質問状」として質問した。第2回の公開質問状では、クラウドサービスを提供するITベンダー主要8社が質問に回答。本記事では、富士通の富田達夫・代表取締役が、「クラウド」に関する疑問に回答する。

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質問3:情報保護・保障の考え方

Q:顧客企業のデータの保護・セキュリティーをどのように確保しているか。万が一の事故の場合の保障についてどう考えているか。

A:お客様とのやり取りの中で決める。

 それは、クラウドの中のセキュリティーについて、どこまで許すかをお客様とやり取りする中で決める。何かあったときに「ごめんなさい」で済むのか、損害賠償が必要になるのか。ただ、無限の損害賠償はできない。例えばこれが漏れたらその企業にとって致命的だというデータは、「申し訳ないけどクラウドに乗せないでください」というケースもあり得る。

 富士通はお客様のすべてのデータを預かることができるとは思っていない。暗号の鍵など、お客様の責任で管理してもらわなければならないケースも出てくるだろう。

 それから、エンタープライズクラウドとパブリッククラウドの2つのうち、富士通としては前者だけを推進するわけではない。両方やるべきだと考えている。

 富士通はパブリッククラウドを否定するわけではなく、パブリックで構わない情報についてはどんどん使うべきだ。ただ、(米国など)海外にはテロ防止などを名目に、政府当局があらゆる計算機の中身を見られる国もある。

 例えば、グーグルに情報を預けると、情報が物理的にどこの国のサーバーに保管されるか分からない。機密性の高い情報をそういうところに預けられるかという問題は当然ある。

質問4:標準化・オープン性確保の考え方

Q:クラウド業界の標準化・オープン性確保についてどのように考えているか。

A:標準化は重要な課題。注意深く見ていく。

 標準化は重要な課題だと考えているが、現在は各社の思惑が先行しているように見える。今、標準化の活動を進めていて、主導権争いみたいなところがある。米マイクロソフトならマイクロソフトのアプリケーションを中心とした標準化、米シスコならネットワークを中心とした標準化を目指していると理解している。やはり、それぞれに思惑がある。当社としては、突出するところがないように、注意深く見ていきたい。

 富士通はSystemwalkerやInterstageなど、強いミドルウエア製品を持っている。ただし、これらを軸にして「富士通製品しか使えません」というのは、クラウドの世界ではあり得ない。そういうことをする考えはない。

質問5:ユーザー企業に伝えたいこと

Q:ユーザー企業に伝えたいことは。

A:クラウド時代にはコンピュータに頼らないやり方も提案する。

 富士通は今、「フィールド・イノベータ」と呼ぶ人材を育成し、サービスを展開している。売上高や利益率などの面で、企業を良くしたいという相談に乗るものだ。まず、企業内で起きている様々なことを「見える化」して、次に必要ならそれをどうやって情報システムにしていくかを考えるお手伝いをする。

 実は、最初から「情報システムありき」「ITありき」で入ってこられるCIOの方が少し多いかなと思う。ITを使わないでやれれば一番いいはずなのに。でも、それはCIOの権限ではないことも結構多い。

 企業を良くするためには、コンピュータに頼らなくてもできることがいくらでもある。ユーザー企業の皆さまにも、そういう観点でアプローチしてもらえれば、我々もまたいろいろな今までにない提案ができるという思いがある。

回答者:富田達夫(とみた たつお)氏
富士通 代表取締役
1973年富士通入社。2005年モバイルフォン事業本部長、経営執行役。2007年経営執行役専務。2008年取締役副社長。2009年代表取締役副社長。2010年4月から代表取締役。

オールジャパン競争力強化実行委員会とは

 情報システムの有力ユーザー企業18社のCIO(最高情報責任者)およびCIO経験者で構成する組織。IT(情報技術)ベンダーに対して、CIOの率直な疑問を「CIO公開質問状」として発信する活動を展開。CIO側の疑問の理解と、ITベンダー側の改善努力を促し、IT活用を通じた日本企業の国際競争力向上につなげることを目指す。

 事務局は、月刊ビジネス誌『日経情報ストラテジー』編集部と、東京コンサルティング代表の石堂一成氏が共同で務める。それぞれ、CIOが参画する中立的な勉強会である「日経情報ストラテジーCIO倶楽部」と「CIOネットワーク・ジャパン」を主宰している。この2つのコミュニティーに所属するCIOを中心とする18社で委員会を構成する。

メンバー企業名(50音順):
旭化成、オムロン、オリックス、カシオ計算機、サントリーホールディングス、JFEスチール、新日本石油、住友電気工業、セブン&アイ・ホールディングス、損害保険ジャパン、電通、東京ガス、東芝、トヨタ自動車、パナソニック、富士ゼロックス、三菱ケミカルホールディングス、森永乳業

■変更履歴
回答者の肩書きが「富士通 代表取締役副社長」となっていましたが、正しくは「富士通 代表取締役」です。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2010/06/18 17:00]