月刊ビジネス誌『日経情報ストラテジー』と東京コンサルティングが共同で事務局を務める「オールジャパン競争力強化実行委員会」は、情報システムユーザー企業のCIO(最高情報責任者)が、情報システム提供企業に対して抱く疑問を「CIO公開質問状」として質問した。クラウドサービスを提供するIT(情報技術)ベンダー主要8社が公開質問状に回答した。本記事では、セールスフォース・ドットコム宇陀栄次・代表取締役社長が、「クラウド」に関する疑問に回答する。

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質問3:情報保護・保証の考え方

Q:顧客企業のデータの保護・セキュリティーをどのように確保しているか。万が一の事故の場合の保証についてどう考えているか。

A:保証を求めるお客様とはSLA(サービス・レベル・アグリーメント)を結んでいる。データ管理の仕組み上、安全性には自信がある。

 万が一の場合の保証については、お客様によってはSLA(サービス・レベル・アグリーメント)を結んで、その中で定めている。万が一情報漏えいが起きた場合の対応や、それに対する損害賠償などは、全部個別に定義している。

 そう言ってしまえばそれだけだが、技術的に安全性が低いわけではない。

 例えばセキュリティーに関して言えば、氏名、生年月日、クレジットカードブランド、クレジットカード番号、有効期限…これが全部そろったものが漏えいする可能性があるなら大変なリスクだ。

 実際に当社内でどう管理しているかというと、氏名はそのまま保管している。ただ、それ以外の生年月日やクレジットカード番号などの数字は全部バラバラに分かれていて、顧客企業数万社分が混在した状態で存在する。

 仮に誰かがこれを盗んだとしても、数字の羅列にしか見えない。当社が保管する数十テラ(テラは1兆)バイト分のデータを全部まとめて盗んで、それを復元するための項目の一覧表も盗んで、さらに暗号を解くためのパスワードも盗んで、それを組み合わせないと意味がない。論理的にはきわめて難しいはずだ。少なくとも、こうしたデータ数万社分がミックスされているほうが(1社分だけ分別して管理するよりも)安全性は高いはずだ。

 もちろん、当社内部に悪意の技術者が紛れ込むリスクはあるだろう。ただ、アクセス権限を持つ人は限定している。先に述べたように、部分的にコピーしても復元できない。数十テラバイトのデータを全部コピーするような不審な行動を取る者がいたら、関係者に警告が配信される仕組みもある。

質問4:標準化・オープン性確保の考え方

Q:クラウド業界の標準化・オープン性確保についてどのように考えているか。

A:基幹情報システムとの接続についての課題には継続的に取り組んできた。

 セールスフォースは、企業が持つ既存の基幹情報システムとの接続のためにAPI(アプリケーション・プログラム・インターフェース)を用意している。APIについては、最初は、うまく接続できないといった課題が数多くあった。しかし、お客様からそういう指摘を受ける中で、改善してきたつもりだ。相互接続に関するノウハウも蓄積しつつある。ISO(国際標準化機構)や米国のセキュリティーに関する公的認証も取得した。社内で使っている開発言語「Apex」の仕様を公開するなどの取り組みもしている(関連記事)。

 日本では、政府のシステム調達の問題などから「ベンダーロックイン」という言葉が定着した。当社にはそういう発想はないし、(セールスフォースにデータを預けるからといって)ロックインされるというのは違うと思う。セールスフォースが対象とするクラウドサービスの市場はまだまだ小さいし、小さな市場でロックインしようという発想はない。

質問5:ユーザー企業に伝えたいこと

Q:ユーザー企業に伝えたいことは。

A:課題をあれこれ議論する前に、とにかくじかに法人向けクラウドサービスを使ってみたり、触れてみたりしてほしい。

 私は、クラウド・コンピューティングに関する様々な議論の場・検討会に呼ばれることも多い。そこでは、クラウド導入の課題だとか、問題点だとか、そういう話がたくさん出てくる。

 どういうわけか、最初が「課題点・問題点」という議論が多い。しかも論じている人に限って、クラウドのことを深く知っているわけではなく、Googleを使ったことがあるぐらいだったりする。Googleは1つの例として分かりやすいのは事実だが、我々はGoogleとは違う。我々は法人向けのビジネスアプリケーション・サービスでずっとやってきている。

 まだ新しい技術・サービスだから、課題があるのは事実だと思う。しかし、あまりにも課題、課題と言って議論ばかりしていると、先に進めない。日本の行政機関や企業のIT活用が進まない理由がこのあたりにあるような気もする。


回答企業8社一覧


回答者:宇陀栄次(うだ えいじ)氏
セールスフォース・ドットコム 代表取締役社長
セールスフォース・ドットコム 代表取締役社長 宇陀栄次(うだ えいじ)氏 慶応義塾大学法学部卒。1981年日本IBM入社。20年間在籍し、大手企業担当の営業部門を経て、社長補佐、製品事業部長、理事情報サービス産業事業部長などを歴任。事業責任を担当。法人系IT企業の社長を経て、2004年米セールスフォース・ドットコムSenior Vice President(上級副社長)、日本法人セールスフォース・ドットコム代表取締役社長に就任。

オールジャパン競争力強化実行委員会とは

 情報システムの有力ユーザー企業18社のCIO(最高情報責任者)およびCIO経験者で構成する組織。IT(情報技術)ベンダーに対して、CIOの率直な疑問を「CIO公開質問状」として発信する活動を展開。CIO側の疑問の理解と、ITベンダー側の改善努力を促し、IT活用を通じた日本企業の国際競争力向上につなげることを目指す。

 事務局は、月刊ビジネス誌『日経情報ストラテジー』編集部と、東京コンサルティング代表の石堂一成氏が共同で務める。それぞれ、CIOが参画する中立的な勉強会である「日経情報ストラテジー CIO倶楽部」と「CIOネットワーク・ジャパン」を主宰している。この2つのコミュニティーに所属するCIOを中心とする18社で委員会を構成する。

メンバー企業名(50音順):
旭化成、オムロン、オリックス、カシオ計算機、サントリーホールディングス、JFEスチール、新日本石油、住友電気工業、セブン&アイ・ホールディングス、損害保険ジャパン、電通、東京ガス、東芝、トヨタ自動車、パナソニック、富士ゼロックス、三菱ケミカルホールディングス、森永乳業