KDDIも新興国への出資を加速していく意向だ。その第1弾として2009年11月,バングラデシュのブラックネットに出資した(表1図1)。同社は,固定WiMAXによるインターネット接続を提供している。KDDIの戦略で特徴的なのは,短期の投資回収ではなく,社会貢献活動を実施し,人々の生活水準向上を狙う点。「新興国ではまず生活水準を上げていかないとビジネスが拡大しない」(KDDIグローバルICT本部の松田康典グローバルビジネス開発部長)からだ。

表1●KDDIの主な海外M&A事例
出資先 ブラックネット DMXテクノロジーズ
国・地域 バングラデシュ 中国
業種 インターネット接続事業者 システム・インテグレーション,放送事業者向けのデジタル・メディア・ソリューション
売上高(注1) 約2億3000万円 162億5000万円
出資額(注1) 約8億円 約117億6600万円
出資比率(注2) 50% 52.22%
株式取得時期 非開示 2009年12月
注1)取得時期の前に期末を迎えた年度のデータ。米ドルは90円で換算
注2)出資比率は株式取得時点のもの
図1●KDDIが出資したバングラディシュのブラックネットの事業モデル<br>インターネット接続事業からの配当利益を得るだけでなく,社会貢献活動を通じて人々の生活水準を上げることでマーケットそのものの拡大も狙う。
図1●KDDIが出資したバングラディシュのブラックネットの事業モデル
インターネット接続事業からの配当利益を得るだけでなく,社会貢献活動を通じて人々の生活水準を上げることでマーケットそのものの拡大も狙う。
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 そこでKDDIは,マイクロファイナンスなどを手掛ける現地NGOと連携し,学校や医療機関,ビジネスコンビニに固定WiMAXによるブロードバンド回線を提供する。現在,バングラデシュのインターネット普及率はわずか2%。まずはインフラを充実させ,裾野を広げることを狙う。そして,「事業が軌道に乗った段階で,UQ WiMAXのノウハウを使ったモバイルWiMAXの提供も検討する」(松田部長)。ここで経験を積んだ後は,このモデルをほかの新興国にも適用する考えだ。

マイクロファイナンスとは
民間の金融機関が資金を貸与しないような貧困者向けの小口(マイクロ)金融(ファイナンス)の総称。マイクロクレジット(小口融資)のほか,マイクロインシュアランス(小口保険)など様々なサービスがある。銀行の場合は,無担保かつ小口で個人に貸し出し,その資金の使い道や返済計画などのアドバイスを銀行員が個別に実施する。非合法な高利貸しに頼り,生活がさらに貧しくなるといった悪循環を断つために考え出された。2006年にノーベル平和賞を受けたバングラデシュのムハマド・ユヌス氏が創設したグラミン銀行の取り組みが有名。