限られたIT予算を有効活用するために、2010年度はユーザー各社がIT投資の投資対効果を厳しく精査するようになる。投資対効果を高めるために、グループ全体のIT戦略・戦術を立案したり、クラウドコンピューティングの採用を本格的に検討したりする動きも活発化しそうだ。日経コンピュータと日経BPコンサルティングが四半期に1度実施している「景況・IT投資動向調査」の最新結果からわかった。

IT投資の評価指標、「必要性は感じるが定めていない」が最多

図1●IT投資判断や投資効果の評価指標
図1●IT投資判断や投資効果の評価指標

 投資対効果を高めるには、それを測る評価指標が不可欠だ。約8割の企業が指標の必要性を感じているものの、実際に評価指標を定めて活用している企業は1割に満たない(図1)。

 IT投資判断や投資効果の評価指標の有無を聞いたところ、「定めており、活用している」企業は7.2%しかなかった。「定めているが、活用できていない」が8.0%、「定めていないが2010年度に定めたい」は7.2%である。半数を超える58.8%は「(指標を)定めていないし計画もないが、必要性は感じる」と回答した。IT投資の是非を判断する指標の必要性は数十年前から議論されているテーマだが、行動が伴っていないのが実情だ。

 では、指標を策定するとしたら、どういった指標が求められるのだろうか。指標を定めている、または採用予定の指標を訪ねたところ図2の5つに絞り込まれた(調査では5つまで複数回答)。

図2●採用している、または採用予定の指標(5つまで複数回答)
図2●採用している、または採用予定の指標(5つまで複数回答)
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 最も多かったのが「対象業務に費やす工数(人員数×時間)の削減率」(61.6%)だ。これに「システムの運用コスト削減率」(59.1%)、「システムの利用率(利用頻度)」(55.2%)、「システム利用者の満足度」(54.7%)、「対象業務の削減時間(リードタイムなど)」(52.7%)が続いた。これに対し、「全社の売上高伸長率」(5.4%)や「全社の営業利益慎重率」(9.9%)といった、全社の経営視点をIT投資の評価指標に紐づける意向は少なかった。

グループ共通のIT戦略が求められている

図3●グループ経営を強化するかどうか
図3●グループ経営を強化するかどうか

 ITに限らず事業全体の効率を高めるためには、グループ経営の強化は避けて通れない。今回の調査では3社のうち2社が、グループ経営の強化に前向きな姿勢を示した(図3)。

「推進する。さらに強化する」(13.6%)、「推進する。現状の取り組みを継続する」(15.6%)の2つで全体の3分の1を占める。これに「推進したい。2010年度中に着手する」(4.8%)と「具体的な計画はないものの、推進したい」(38.0%)を加えると、全体の72.0%に達する。

 グループ経営を推進するためには、情報共有や意思決定の迅速化を後押しするITが不可欠だ。そのためにユーザー各社は、「グループ共通のIT戦略を立案する」ことを最優先事項と考えている。グループ経営を「推進する」または「推進したい」と考えている企業の41.7%が挙げた(図4)。

 その上で「システム基盤(ハード/ミドルウエア)を集約・統合する」(33.9%)、「システム(アプリケーション)を集約・統合する」(33.9%)、「グループ全体の業務情報を収集・共有するシステムを整備する」(31.7%)といった、具体的なアクションにつなげていこうと考えている。

図4●グループ経営を強化するための情報化推進活動(3つまで複数回答)
図4●グループ経営を強化するための情報化推進活動(3つまで複数回答)
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クラウドコンピューティングは“様子見”状態

 IT投資の削減策やグループ経営の強化策として、「クラウドコンピューティング」に注目が集まっている。今回の調査では、電子メールなどの情報系に限らず、生産・物流分野や財務・会計分野といった基幹系システムでの採用についても、半数以上の企業が関心を持っていることがわかった。だが、クラウドコンピューティングを「導入済み」「2010年中に導入予定」と回答したのは、情報系で10%強、基幹系では5%に満たない。採用・導入気運が本格的な高まるのは、2011年以降になりそうだ。

 クラウドコンピューティングの導入意向を、「情報共有」「販売/顧客」「生産/物流」「財務/会計」のそれぞれについて尋ねた結果を図5に示す。最も採用・導入以降が高かったのが情報共有系システムだ。「導入済み(一部導入含む)」は11.2%、「2010年に導入予定」は2.0%、「2010年に検討予定」は10.4%で、合計すると全体の2割を占める。

図5●クラウドコンピューティングの導入意向
図5●クラウドコンピューティング*の導入意向
*:SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)などシステム/アプリケーションの期間貸しサービスすべてが対象
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 これに続くのが販売/顧客系システムだ。「導入済み(一部導入含む)」は8.0%、「2010年に導入予定」は2.0%、「2010年に検討予定」は8.8%と、やはり約2割の企業が採用・導入に前向きだった。一方、生産/物流系システムでは「導入済み」「導入予定」「検討予定」を合わせても8.4%しかない。財務/会計システムも同10.4%だった。

 クラウドコンピューティングの定義については様々な捉え方があるが、ここではSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)やPaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)など、ネットワーク経由のシステム/アプリケーションの期間貸しサービスすべてを対象として調査した。