月刊ビジネス誌『日経情報ストラテジー』と東京コンサルティングが共同で事務局を務める「オールジャパン競争力強化実行委員会」は、情報システムユーザー企業のCIO(最高情報責任者)が、情報システム提供企業に対して抱く疑問を「CIO公開質問状」として質問した。クラウドサービスを提供するIT(情報技術)ベンダー主要8社が公開質問状に回答した。本記事では、セールスフォース・ドットコム宇陀栄次・代表取締役社長が、「クラウド」に関する疑問に回答する。

質問1:「クラウド」の定義

Q:貴社における、対外的に公表している「クラウド」「クラウド・コンピューティング」の定義について確認したい。

A:一般消費者向けのウェブ技術を、法人向けに価格と品質を明示して提供すること。

 技術的には、一般消費者向けのインターネット・ウェブ関連サービスで培われた技術を法人向けに応用しようというのが、セールスフォース・ドットコムの根本の考え方だ。

 一般消費者向けサービスといえば、Google(グーグル)やYahoo!(ヤフー)が分かりやすい。ここで使われ、培われた技術は、何億人もの利用者にもまれて、バグ取りされ尽くした状態だ。きわめて安定して動作するようになっている。グーグルやヤフーに「夜間停止中」は無く、いつでも使える。この技術的な蓄積を法人向けにも生かそうというのがセールスフォースの考えだ。

 もう1つ重要なのは、クラウド・コンピューティングはコンピュータの「利用」の面で自由度の高い仕組みだということ。法人向け情報システムのなかには、数年単位で開発し5年単位のリース契約で「保有」することがある。しかし、それでは遅かったり、時間がたつと必要無くなったりするケースもある。

 当社のサービスは、日本政府の「エコポイント」や「定額給付金」のための業務システムに利用された(関連記事)。これらは、クラウド・コンピューティングになじみやすい用途だと考えている。もし機器に投資をして保有したら、イベントやキャンペーンが終わった後にどうするかという問題が残る。

 逆に言えば、当社は、すべての法人向け情報システムがクラウドになるとは考えていない。保有したほうが良いケースも当然ある。

質問2:他社に比べた優位点

Q:貴社が提供するクラウド関連サービスで、他社に比べて優れているのはどんな点か。

A:全世界で6万7900社の顧客がいるという実績がある。バージョンアップも年3回と頻繁にやっている。価格体系も明示している。

 ベースのバージョンアップは年3回行っている。全世界で6万7900社(2009年10月末時点)いる顧客が、何の影響も受けずにバージョンアップされた新機能を享受できる。それに伴う追加料金などもない。(セールスフォースが得意とするCRM=カスタマー・リレーションシップ・マネジメントシステムなど)「フロント系」の情報システムは、やはり移り変わりが激しい。頻繁に機能強化しているのは優位点だと思う。

 私自身が2004年セールスフォース・ドットコム日本法人の社長になって、自分で一番驚いたのがこの点だった。私の感覚からするとバージョンアップというのはかなりの大ごとで、数万社の顧客がいれば、それに伴う電話対応やら、データ不整合に伴う対応やらが大変だろうと思っていた。現実には、毎年3回でもう20回ぐらいバージョンアップを実行しているが、かなり例外的なものを除いて、ほとんどトラブルは起きていない。

 料金体系も明示してウェブサイトなどに載せているのも優位点だ。利用実績とバージョンアップと料金体系の3つがすべてそろっているのは、他社ではないのではないか。

次回に続く


回答企業8社一覧


回答者:宇陀栄次(うだ えいじ)氏
セールスフォース・ドットコム 代表取締役社長
セールスフォース・ドットコム 代表取締役社長 宇陀栄次(うだ えいじ)氏 慶応義塾大学法学部卒。1981年日本IBM入社。20年間在籍し、大手企業担当の営業部門を経て、社長補佐、製品事業部長、理事情報サービス産業事業部長などを歴任。事業責任を担当。法人系IT企業の社長を経て、2004年米セールスフォース・ドットコムSenior Vice President(上級副社長)、日本法人セールスフォース・ドットコム代表取締役社長に就任。

オールジャパン競争力強化実行委員会とは

 情報システムの有力ユーザー企業18社のCIO(最高情報責任者)およびCIO経験者で構成する組織。IT(情報技術)ベンダーに対して、CIOの率直な疑問を「CIO公開質問状」として発信する活動を展開。CIO側の疑問の理解と、ITベンダー側の改善努力を促し、IT活用を通じた日本企業の国際競争力向上につなげることを目指す。

 事務局は、月刊ビジネス誌『日経情報ストラテジー』編集部と、東京コンサルティング代表の石堂一成氏が共同で務める。それぞれ、CIOが参画する中立的な勉強会である「日経情報ストラテジー CIO倶楽部」と「CIOネットワーク・ジャパン」を主宰している。この2つのコミュニティーに所属するCIOを中心とする18社で委員会を構成する。

メンバー企業名(50音順):
旭化成、オムロン、オリックス、カシオ計算機、サントリーホールディングス、JFEスチール、新日本石油、住友電気工業、セブン&アイ・ホールディングス、損害保険ジャパン、電通、東京ガス、東芝、トヨタ自動車、パナソニック、富士ゼロックス、三菱ケミカルホールディングス、森永乳業