モジュール化(modularity)という概念はカーリス・Y・ボールドウィン氏とキム・B・クラーク氏が2000年に唱えて以降,IT産業を分析するうえで有効なツールとして有名になった。現在のパソコンやインターネット上のサービスなど,IT産業の製品やサービスはたいてい,小さな単位である「モジュール」の組み合わせで成り立っていると考えられる。

 しかし,米グーグルや米アップルなど,モジュール化との流れとは逆行しているようにも見える事例が増えている。本書は,こうした現象を「統合化」と呼ぶ。そして,モジュール化の時代は終わり,統合化の時代が到来したとの仮説を立て,その検証を試みている。

 技術革新を長期的に見ると,大きなブレークスルーを伴う「突破型革新」が集中的に起こる時代と,その後に小規模な改良に基づく「改良型革新」が集中する時代が続くという仮説があるという。著者は,この仮説をベースに,「突破型革新が主役の時代はモジュール型製品が優勢となり,改良型革新が主役の時代には,統合型製品が優勢となる」という仮説を主張する。そして,今はちょうど改良型革新が集中している時期にあたるため統合化へ回帰しているというわけだ。

 1970年から1990年代半ばにかけ,パソコン,インターネット,Web,メール,Web検索といった突破型革新が次々に起こった。しかし,それ以降に登場したブログ,SNS(social networking service),動画共有サイトといった新サービスが突破型革新であるかは疑わしいという。こうした主張を検証するためにとった著者の手法がユニークである。

 著者によると,経済学的な意味での技術進歩率は生産性の上昇によって測られる。しかし,突破型革新よりもむしろ改良型革新の方が生産性を向上させる傾向にあるため,突破型か改良型かの判定に生産性を指標とするのは不適切だという。そこで著者は,日経パソコンなどから技術用語を抽出し,それが画期的かどうか一般ユーザーにアンケートを実施した。アンケートの結果,画期的だと思われる技術は減っており,そこから突破型革新の頻度は減少していると著者は結論付ける。

 全体を通して気になったのは,「こういう反論があるかもしれない。それに対してはこう答える」という“言い訳”のような論の建て方が目立つ点だ。技術的な誤認もあり,例えばIPのRFCが作られたのは1981年だが,本書ではARPANETが登場した1969年となっている。個別に気になるところはいろいろある。また,結論に対しては専門家の議論を待つ必要はあるかもしれない。ただ,最近のIT業界の背後にある現象を理解を助け,議論を展開する材料を豊富に提供してくれる書であることは間違いない。

モジュール化の終焉

モジュール化の終焉
田中辰雄著
NTT出版発行
3780円(税込)