標準化は業務活動に必要不可欠なものだが、それが企業や組織の「強み」を破壊してしまうとしたら、そんな標準化を実施してはいけない。業務には、標準化すべきものと、そうすべきでないものがある。ある点に注目すれば、「標準化すべきか否か」が自ずと明らかになる。

クニエ 戦略サポートグループ
鎌田 肇、山本 真

 標準化の効果としてよく期待されるのは「属人化の排除」だ。ご存じの通り、属人化とは特定の業務プロセスが特定の担当者に強く依存して行われている状態を指す。特定の担当者に業務が集中しがちになり、「会計システムは、あの人が対応しないと仕事が回らない」とか、「この帳票システムの設計書のレビューには、あの人がいないと不安だ」といった事態に陥ってしまう。

 属人化は、IT部門ではよく起こる問題である。IT部門の業務は、専門的なITの知識が問われつつ、さらに業務の知識も問われる。2つの異なる知識と幅広い経験が求められることから、どうしても担当できる人が絞られてくる。IT部門の業務は、とりわけ属人化しやすいといえるだろう。この問題をなんとか解決したいと考えるのは自然な発想である。

 ただし、意外に思われるかもしれないが、属人化は必ずしも「悪」として排除すべきものではない

 例えば、特定システムの運用に関する緊急依頼やトラブルに対して、技術力の高い個人が対応したからこそ解決に至ったという話はよくある。身近で見聞きした読者も多いのではないだろうか。これは企業にとって大きな「強み」となる。そういう部分はあえて残し、「ミスやトラブルを減らしたい部分」を標準化することで、より高い業務品質を実現することができる。

 今回は運用業務の標準化に取り組んだ結果、「良い属人化」を排除してしまった事例を取り上げたい。これも「失敗する標準化」の典型例の1つである(図1)。

図1●標準化に失敗する6つの理由
図1●標準化に失敗する6つの理由

「属人化排除」の取り組みとして標準化を推進

 グローバルに事業を展開する製造業C社のIT部門では、物流システムを担当するグループや生産システムを担当するグループなど、システム運用を業務アプリケーション単位で組織していた。

 C社のIT部門は、システムの利用現場から信頼されていた。各運用グループのメンバーは担当業務に精通しており、業務部門の要望や緊急の依頼にも柔軟に対応していたからだ。各メンバーは担当業務の運用を長期にわたって続け、ときには業務部門の人よりも業務プロセスの全体像を把握し、複雑なノウハウを身に付けていた。そのためIT部門長のA氏は、業務部門に満足度の高いサービスを提供していることに誇りを感じていた。