システム開発プロジェクトでは、組織間のコンフリクト(対立)がよく起こる。第35回の『アプリvs.インフラ、担当者はなぜ分かり合えない?』では、アプリケーション担当者とインフラ担当者の対立を取り上げたが、もう1つ、やっかいな対立関係がある。それは「現場と上位組織の対立」だ。

後藤 年成
マネジメントソリューションズ マネージャー PMP


 プロジェクトで仕事をしていると、プロジェクトのメンバーから必ずといっていいほど耳にする文句があります。「“上”は現場のことを何も分かっていない!」と。ここでいう“上”とは、プロジェクトマネジャより上の関係者、“上位組織”を指します。

 PMOは立場上、プロジェクトの現場の状況を上位組織に伝え、上位組織での決定事項をプロジェクトの現場に浸透させるという役割を担っています。ここで、いくらPMOがコミュニケーションのハブとしてがんばっても、プロジェクトの現場と上位組織がお互いを理解し合えない限り、このような不満はなくなりません。

上位組織は「何も分かっていない?」

 自分自身を振り返ってみても、プロジェクトのメンバーやチームリーダーとして仕事をしていたころは、「“上”は何も分かっていない、本当に現場のことを分かっているのか?」などと愚痴をこぼしていました。特に、忙しいときに限って「報告用の資料を作れ」だとか「遅れの説明とリカバリー・プランを説明しろ」などと言われたりします。さらにひどい時は、皆が徹夜明けでぐったりしているところへ、久しぶりに“上”の人が来たと思ったら、「今日は飲みに行くぞ!」と現場の状況を全く無視した発言をしたり…。このような経験をされた方も多いと思います。

 その頃は、「事件は会議室で起きてるんじゃない。現場で起きているんだ!」というセリフを何度も思いました。

 しかし、私がプロジェクトマネジャやPMOをやるようになって実感したことがあります。それは、「事件は会議室でも起きている」ということです。“上”の人と直接話す立場になってみないと、なかなか理解できないのかもしれません。

メンバーから上位組織が見えない理由

 私の経験から言って、プロジェクトの一メンバーとしての視点から上位組織を見ると、上位組織はブラックボックス化していることが意外と多いのではないでしょうか。つまり、プロジェクトの現場からはどのような情報が報告され、どのようなことが話し合われ、その結果どのような指示が出てくるのかの経緯が全く見えず、唐突に上からの指示だけが与えられる、という印象を受ける方が多いと思います。そのような印象が強い現場には、以下の2つの共通点があると考えています。

(1)上位者はプロジェクトの現場にほとんど顔を出さない
(2)プロジェクト組織としての情報連携がうまくできていない

 (1)については、例えばプロジェクト体制図に“上”の人の名前が載っているにもかかわらず、「メンバーは顔も見たことがない」あるいは「飲み会にしか来ない」という状況を指します。現場のメンバーから見ると、そのような人たちが現場の状況を本当に理解して、正しい判断ができているのかと疑問に思うのも無理はありません。

 (2)については、本来、上位組織との橋渡しをして情報を伝達すべきプロジェクトマネジャやPMOが、その情報伝達機能を果たしていないケースです。公にできない事項(機密事項など)もありますが、それはほんの一部です。むしろ、「上位組織で話し合った内容を伝えなくても現場レベルでは困らない」「聞かれたら話すけれど、わざわざこちらからは話さない」というスタンスの人が、プロジェクトマネジャやPMOを含め、上位組織のメンバーには案外多いのではないでしょうか。

 上記の(1)や(2)の結果、現場の不信感が生まれ、現場では上位組織に正しい情報を上げなくなる可能性があります。なぜならば、現場を理解していない上位組織に情報を不用意に上げてしまうと、「的外れの、余計な仕事が増える」と現場が思い込んでしまうためです。情報の重要度にかかわらず、上位組織に正しい情報を上げなくなる状況は、なんとしても避けなければなりません。