2010年1月に始まった通常国会に提出される予定の放送と通信の融合法案において、電波利用の柔軟化に向けて、「電気通信業務用・放送用など通信・放送両用の無線局の開設を可能とする」制度の具体的な中身が明らかになった。

 現行の電波法では、無線局の免許を申請する際に、「電気通信業務用」や「標準テレビジョン放送」など、無線局開設の目的を書類に記載する必要がある。免許が付与された後の、無線局の目的外使用は禁止されている。これに対し、情報通信審議会情報通信政策部会の「通信・放送の総合的な法体系に関する検討委員会」が作成した答申案(2009年6月19日公表)では、電波利用の柔軟化を推進し、通信および放送両方の無線局の開設を可能にする制度を整備することを提言していた。

 今回、通信業務用や放送業務用の無線局をほかの用途で使用できるようことを可能にする事項が、どのような形で盛り込まれる方向で作業が進んでいるかが分かった。「副次的な業務の範囲を越えない限りにおいて、届け出をすれば無線局をほかの業務で使えるようにする」という趣旨の記述が法案に盛り込まれる見込みである。これにより、一部の時間帯に限って通信事業者が既存の無線局を使って放送サービスを行ったり、放送事業者が自社の無線局を利用して通信サービスを展開したりすることが容易になる。詳細は、2010年1月18日号の日経ニューメディア(ホームページへ)に掲載している。

 今回、「届け出」だけでほかの目的での利用を可能にする方針を打ち出したのは、新政権の発足に伴い、「電波利用の活性化により産業振興を推進する」という強いメッセージを発することが狙いの一つとみられる。こうした目的以外の用途で利用できるようにする前提として、「事業者が目的外の事業を『本来業務に支障のない範囲』で行う場合に限る」方向である。

 こうした制度が実現すると、例えば「NTTドコモが放送事業に参入」「○×放送が通信事業に参入」といったことが、届け出により実現できる。ただし、こうした相互参入は、既存の通信・放送事業という限られた市場を食い合うのではなく、むしろ電波の新たな用途を生む可能性がある。つまり、「放送事業者が展開する通信サービスは、既存の通信サービスと異なる」「通信事業者が手がける放送サービスは、既存の放送サービスと異なる」と考えられるからだ。

 元々、それぞれの無線局には双方向と片方向という本質的な違いがある。さらに利用周波数やエリアのカバーの仕方が全く異なる。たとえ、移動体通信事業者が放送事業に進出したとしても、あくまで副次的な業務という位置づけであり、かつ周波数もテレビ端末に搭載されているチューナーの対応周波数と異なる。つまり、ここで生まれる放送は従来にない概念の放送(不特定多数を対象にした配信)になるだろう。

 一方の放送事業者が展開する通信事業も同様である。従来だと難しかった特定端末に向けた配信なども、柔軟に行えるようになる。代表例が、特定のデジタルサイネージに向けた配信だが、他にも様々な用途がありそうだ。

 加えて、総務省令で決める技術基準の策定も柔軟化される見込みである。民間の創意工夫を生かした新技術の導入に向けて、例えば民間からの技術基準策定の提案制度などが導入される見通しである。通信事業者や放送事業者は、アイディアがあれば、技術基準を提案し、届出で新サービスを提供できる。新たな市場の開拓への挑戦が容易になる一方で、それぞれの無線局の電波の条件などを考慮して、新サービスを創出する能力が問われることになりそうだ。