2009年の経済情勢は、全産業・全企業において単一の方向性に向かっていた。そのため、日本企業がリーダーシップを発揮するのは比較的容易であった。しかし2010年は、個社固有の事情により、ギアチェンジを迫られる局面が見られるようになるだろう。ITを取り巻く課題に強く影響を及ぼす要素を特定し、IT部門に求められる役割と必要とされるケーパビリティを解説する。

 ITの課題は幅広い。システム統合、実装、性能といったテクノロジ面での課題から、効率性や、有効性(エフェクティブネス)、競争優位性といったビジネス課題にまで及ぶ。もちろん、多くのCIO(最高情報責任者)やITエグゼクティブが、IT部門を先導する上で、これらの課題に対処する必要があることを理解している。

 全世界のCIOからの報告によると、現在は過去の景気後退時とは異なり、“二律背反”の状況に陥っている。世界的な経済の低迷により、企業のリソースを売り上げ規模に的確に一致させるというコスト削減に迫られている。このことは、ITも例外ではない。

 一方で、ITによってもたらされる“価値創造”も増加傾向にある。これにはいくつかの理由がある。第1は、ビジネス部門は、部門のコスト構造を縮小するためにITソリューションに依存する傾向があることだ。第2は、売り上げ増に対するプレッシャーから、製品/サービスに新しい機能を追加することによって既存顧客を定着させ、市場シェアの拡大を重視していること。第3は、Web2.0やアナリティクスといったITが、ビジネスにおいて持続的に成功を収めつつあることである。

先進CIOは「エンタプライズエフェクティブネス」に照準

 不確実かつ激動する時代に、CIOはどの方向に向かって、どのような主題の下に、IT部門を主導していけばよいのか。ガートナーと米MITのSloan School Center for Information Systems Researchが共同で実施した調査からは、先進的なCIOは、取り組みのフォーカスを「エンタプライズエフェクティブネス」の向上に絞っていることが明らかになっている。

 同調査によれば、エンタプライズエフェクティブネスが高い企業は、企業業績(エンタプライズ・パフォーマンス)において他社よりも優れた実績を上げている。特に財務パフォーマンスにおいては、自己資本利益率(ROE)、総資産利益率(ROA)、投下資本利益率(ROIC)の3領域において、エフェクティブネスが高い企業は、過去8年間のうち6年間にわたって競合他社を上回っている。

 エンタプライズエフェクティブネスは、企業の成果達成能力に大きな自信を与えるため、業務運営において非常に重要である。CIOや他のエグゼクティブは、経済課題に対処するためのアクションを的確に決断し、すべてのリソースを有効活用して変革を推進しなければならない。そのためには、揺ぎない自信が必要になる。

 表1に、エンタプライズエフェクティブネスのレベル別に「CIOの戦略」を示す。エンタプライズエフェクティブネスの高いレイヤーから低いレイヤーまでのすべてに共通しているのが、「ビジネスとITの戦略/計画を一体化させる」ことだ。ことであろう。

表1●最もエフェクティブネスの高い企業のCIOは、ITのマネジメント力とスキルを有効活用している
(出所:ガートナー)
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