端末の種類が急増する「マルチデバイス」の時代へ突入
デロイト トーマツ コンサルティング シニアマネージャー八子知礼氏(写真8)は、「モバイルクラウドの実像」と題して講演し、スマートフォンなどデバイスが多様化する「マルチデバイス」の時代に何を考えるべきか、との問題提起を行った。
まず、今後3年ほどの間に、テレワーカー(オフィス以外の場所で仕事をする人)の増加、次期通信インフラLTEの登場と普及、などを背景として、スマートフォンやネットブックが「クラウドデバイス」化していくとの見通しを示した。
スマートフォンやネットブックは、不況下にもかかわらず出荷台数を伸ばし続けている。例えば、米Gartnerが2009年5月に発表した「携帯電話世界出荷が8.6%減のなか、スマートフォンは12.7%増」などのデータがある。スマートフォンの機種数は増加しつつあり、「その半数はAndroid搭載」という状況にあることを説明した(写真9)。
今後、iPhoneやAndroid搭載スマートフォン、Windows Mobile搭載スマートフォン、ネットブック、スマートブック、新市場として期待される「タブレット」など、新たなデバイスが登場するマルチデバイスの時代が来る。
「手元50~60cm、画面サイズ3~8インチのデバイスの多様化と融合進む」
多様なデバイスが登場することで、「画面サイズ3インチから8インチの間に、スマートフォンともネットブックともつかない領域が出現する」と予測する(写真10)。
そのとき課題として浮上するのは、アプリケーション・マーケットの枠組みである。デバイスが多様化する中、特定のデバイスだけを対象とすると、アプリケーションへの投資を回収できないおそれが出てくるからだ。
例えばiPhoneは機種依存性が強く、アプリケーションはiPhone専用に開発する必要がある。複数種類のデバイスを対象としたアプリケーション開発の仕組みや、あるいはアプリケーション開発以外のレイヤーにおいて複数プラットフォームを対象とする考え方が必要となる。
そこで、マルチデバイスに対応した広告プラットフォーム、コンテンツ提供プラットフォームの共通化が求められるようになるだろう(写真11)。コンテンツや広告を1回作ることで複数のデバイスに対応させられる仕組み、複数のデバイスにまたがる認証の仕組み、等々である。さらに、通信事業者や端末メーカーごとに分断された複数のアプリケーション・マーケットで相互流通や統合(アグリゲーション)ができないだろうか、という問題意識を示した。
続いて、Disruption(創造的崩壊)とConvergence(融合)というキーワードを示し、通信・コンテンツ・メディアなどを取り巻く世界で、破壊と融合が同時に起こっていることを強調した。そして、破壊と融合の境目の場所にビジネス・チャンスがあると指摘した。
多様化するデバイスごとに、新たなユーザー体験が生まれてくる。距離50~60cmで使う、画面サイズ3~8インチ程度のデバイスは、スマートフォン、タブレット、ネットブックなど、多様なデバイスがひしめき合う領域となる(写真12)。「特にこの領域でConvergenceが起こりやすいと考えている」。
エコシステムを形成できるアプリケーション・マーケットが必要
そして、クラウドデバイスのビジネスでは、アプリケーション開発者向けの施策が重要となる。よく用いられる戦略は、プラットフォームに特化した開発キットの提供による開発者のロックインである。例えばiPhoneアプリケーションの開発者は、iPhone OSにロックインされる格好となる。一方、アプリケーション開発者を巻き込むには、健全な形で収益を還元するエコシステムの形成が欠かせない。
「エコシステムとロックインは二律背反」と強調し、この矛盾をどのように解決するかが大きな課題である、と強調した。例えば、無料のアプリケーションしか流通しないのでは、エコシステムとして健全ではなく、マーケットの成長は望めない。なんらかの形で、アプリケーション開発者も、マーケット運営者の双方に利益が還元される枠組みが必要だろう、と示唆した。
この日の両名の講演は、言外に、Appleが運営するiPhone向けApp Storeや、Googleが運営するAndroid Marketが、通信事業者やコンテンツ・プロバイダなどのプレーヤーから見て完全に満足できる形ではない、という示唆を含んでいた。かつての「iモード」の成功モデルとも、iPhoneのApp Storeとも異なるアプリケーション・マーケットが求められており、そして新たなプレイヤーがそこに参入する可能性もある。そのようなダイナミズムが感じられたイベントだった。