テレビをつければデフレや不景気の言葉が踊り、日本経済が厳しい状況に直面していることを実感する。特に小売業ではその傾向が著しく、ほとんどすべての業態が厳しい価格競争に晒(さら)され疲弊している。
その中でもスーパーなどの食料品小売業は最も価格競争の激しい業態と言える。価格競争になれば、規模で優位に立つ大手ナショナルチェーンが競争力を得ることになる。規模にものを言わせた大手チェーンがこうした状況で市場を席巻していくのかと思われるが、実際は少々異なるようだ。地方のスーパーでは意外に元気な小売業も存在する。大手チェーン店にはできない地元密着経営で顧客をがっちりとらえている。
このような市場環境の下、卸売業が存在感を示している。特に食品流通業における卸は従来の物流や品ぞろえに加え、きめ細やかな店舗支援を武器に売れる仕組みを仕掛け、大手チェーンでは難しい地域にあった店作りを支援しようとしているのだ。本稿では地域のスーパーを陰で支える食品卸売業の菱食とその子会社であるシー・エム・シーの興味深い試みを紹介したい。
グランドデザイン戦略に求められるものとは
デフレ経済の激しい市場競争の下、食品・日用雑貨業界において卸売業は厳しい経営環境に直面している。その中で食品卸最大手である菱食はこれまでも先端の物流システム、販売店への提案型営業などで業界に先駆けて売れる仕組みを仕掛けてきた。
菱食は情報システムによる社内情報・業務の統一、先端の物流センターによる物流効率化などを実現し、また販売店への提案型営業によって、MD(マーチャンダイジング)や販売促進、商品・在庫管理など包括的なサービスを小売業にいち早く提供してきた。特に店舗を支える商圏分析や品ぞろえ、顧客分析などのリテールサポートは業界でも有名である。その菱食が「生活者起点型マーケティング(R-WAVE)」という視点で新しい売れる店舗作りを始めている。
菱食のR-WAVEはライフスタイルマーケティングによるリテールサポートであり、“個”客のライフスタイルを理解し、そのライフスタイルに応じた品ぞろえ、販促の効率化を通じて店舗を支援する手法と言えよう。しかしながら顧客のライフスタイルを理解することは容易ではない。
菱食は図1のように3つの視点からライフスタイルを理解しようとしている。第1に商品がもつ特性とライフスタイルを結びつける視点である。メーカーはさまざまな意図をもって商品開発を行っているが、顧客がどのようにその商品を認知しているのか、そうした顧客の意識も含めた商品の特徴付けを行っている。
第2に店舗における顧客の購買行動とライフスタイル特性を結びつける視点である。購入商品や買い方といった顧客の購買行動はそのライフスタイルに関する貴重な情報を含んでおり、顧客を複数の顧客クラスターに分類する基礎情報を提供してくれる。そしてそれらを統合し、生活者のライフスタイルをビジネスにとって意味あるクラスターに分類する視点が挙げられる。
菱食はこうした3つの視点でもって、インターネット調査、消費者インタビュー調査、購買履歴データ解析、商圏調査、市場データ解析といった膨大な調査を統合し、消費者の理解に努めている。このように得られた生活者のライフスタイルに基づいて、地域の顧客にあった商品提案、品ぞろえ、販売促進案などを小売店やメーカーに提案して、売れる店作りに貢献している。
興味深いのは、菱食は生活者のライフスタイルを理解する能力を養うために、顧客の購買履歴、インタビューなどのリアルのデータと、インターネットで収集できるバーチャルのデータをうまく統合しているところにある。消費者調査において実績のあるニールセンと連携することで、顧客のライフスタイルを分類し、自社のターゲットとなる顧客像を明らかにしている。
顧客のライフスタイルは非常に多様である。このような複雑で多様な顧客を理解するのは、特定の小売業に特化した調査や簡易的なアンケートのみでは対応できない。また直感だけで作るのは論外である。菱食とニールセンは互いの長所を組み合わせることで、新しい仕掛け作りのための基礎を構築している。
新しいサービス作りには、ビジネスに関するグランドデザインが必要となる。そのためには、第1に競争力の源泉となる能力に対して、複眼的な視点でアプローチすること、第2に強みを生かす他社との連携によってその礎を築くことが重要であると言えよう。