アジアやアフリカなどの開発途上国に向けた、女性起業家の育成プロジェクトが進行中だ。世界中で1万人を対象に、ビジネスの基本や経営学などを無償で教え、収益増や事業拡大を支援する。より効率的に支援策を届けるようと、2010年1月からネットを使った教育プログラムが、日本発で始まった。

 開発途上国の女性起業家を育成するという、このプログラムは、米ゴールドマン・サックスが2008年3月に発表し、開始した取り組みである。「経済成長のためには女性の人材活用が不可欠」として、アジアやアフリカ、南米などの開発途上国の女性起業家1万人を対象に、5年計画でビジネス関連の教育を提供する、いわば「ミニMBAスクール」だ。

 対象になる女性起業家は、小さな用品店や飲食店を営んでいるような小規模な個人事業主など、ビジネス関連の教育を受けていない女性。米国などの大学やビジネススクールの講師が、現地の教育機関に出向き、教育を担当する講師を直接指導する。その講師が女性起業家たちにビジネス教育を施す。これまでに1000人近くの女性起業家が受講した。

 ゴールドマン・サックス証券の平尾佳淑コーポレート・エンゲージメント ヴァイス・プレジデントによれば、「過去の受講者からは、『売上げが2倍になった』『設備投資などを考えるようになった』などの声が寄せられている」という。

 ただコストや効率性を考えると直接現地に出向いての指導には限界がある。世界各地にいる女性起業家を効率よく支援するためには、インターネットや遠隔教育のシステムが不可欠だ。

写真1●カメラに向かって講義をする慶応義塾大学大学院メディアデザイン研究科の稲蔭正彦教授
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 そのネットを使った教育プログラムが、2010年1月11日から日本発で始まった。第1回は、慶應義塾大学メディアデザイン研究科の稲蔭正彦教授による「Entertainment」と題する講義である(写真1)。講義は、横浜市にある日吉キャンパスの一室から、世界各地の受講者に向けて20時30分から始まった。

 稲蔭教授ら慶応大学大学院メディアデザイン研究科が実施する講義の受講者も、女性起業家自身ではなく、彼女たちを教える立場にある各国教育機関の講師たちだ。今回の受講者が今後、女性起業家に講義内容を教えることを想定している。映像はアフガニスタンやフィリピン、ケニア、タンザニア、ブラジル、メキシコなど11カ国13カ所に配信された()。

表●慶応義塾大学大学院が実施したプログラムの受講者が所属する教育機関
表●慶応義塾大学大学院が実施したプログラムの受講者が所属する教育機関

 稲蔭教授の目の前に受講者はおらず、2台のカメラが置かれている。稲蔭教授は傍らのパソコンで資料を操作しながら講義する。