古嶋 雅史/デロイト トーマツ コンサルティング パートナー
八子 知礼/デロイト トーマツ コンサルティング シニアマネジャー

デジタル・コミュニケーションは便利なものだが,使い過ぎは禁物だ。最近は不要な電子メールのやり取りが増え,社員の生産性が低下し始めている。これを解決する手段として,メールや従来のサイト運営ではなく社内SNS(social networking service)の整備を進める企業も増えている。

(日経コミュニケーション編集部)

 企業ではコミュニケーションのデジタル化が様々な方法で進み,コミュニケーション量も増えている。しかし多様化と量の拡大は,必ずしも良好なコミュニケーションにつながらない。特に電子メールは不要な情報や迷惑メール(スパム・メール)なども多く,企業の生産性低下や通信事業者のネットワーク・リソースのひっ迫,環境への影響も懸念されるようになってきている。

余計なメールはCO2排出量にも影響

 電子メールが企業の生産性を下げ始めている最も大きな理由は,一人ひとりの社員が送信・コピーするメッセージ数,相手先,頻度が多すぎることだ。単なる確認やチェックなど,多くの場合は冗長なコミュニケーションでしかない。米デイリー・テレグラフによると,平均的なビジネスパーソンがメールに費やす総時間は,1日当たり最大2時間になると推測されている。

 また米国のNPOである「IORG」(Information Overload Research Group)が試算した結果では,年間650億ドルの生産性がデジタル・コミュニケーションによって阻害されているという。既にシリコンバレーでは,消費者動向の権威であるリンダ・ストーン氏が「電子メール時無呼吸症候群」なる造語を提唱している。電子メールの受信トレイを開ける際に,膨大な量のメールを受信していることへのストレスで無意識のうちに呼吸が止まっている状態を指すという。

 米セキュアコンピューティング(合併により現在は米マカフィー)のレポートによると,150億通のスパム・メールが1日に送信され,年間280%の上昇率で増え続けているという。同じくマカフィーの「スパム・メールと二酸化炭素排出量」に関する研究レポートでは,スパムの送信,処理,フィルタリングに使われる世界の年間エネルギー消費量は330億キロワット時(kWh)と算出している。これは,240万世帯が使用する電力量に相当し,310万台の乗用車が75億リットルのガソリンを使用したときの温室効果ガス排出量と同じ量に相当するという。スパム・メールを徹底的に排除するだけで,通信事業者のコストとネットワーク帯域を有効利用できるだけでなく,温室効果ガス削減にも大いに貢献することだろう。

 ビジネスの世界では,デジタル通信は生産ツールである。しかし前述のように多くの企業で,使い過ぎによってデジタル通信の有効性が失われつつある。顧客やサプライヤとの間だけではなく,社内のデジタル通信の有用性をもう一度見直すべき時期に来ている。

 デジタル通信,特にメールの過度の使用は,もっぱら使う人の問題である。社員に対し,「全員返信」(reply-all)機能を見境なく使わないように指示するだけでも,時間とコストの節約になる。例えば,米フォート・ドックスのレポートによると,社員1000人の一般的な企業の場合,社員1人当たりでは年間1800ドルの労働コストの無駄を省けるとの試算がある。

あて先にずらずらと並ぶ上司の名前

 解決の方向性は三つある(図1)。一つは,大前提としてのスパム・メールの取り締まりルールの強化だ。ただしこれはセキュリティの問題であり,ここでは詳しい説明は割愛する。

図1●電子メールの“洪水”がもたらす弊害と解決策
図1●電子メールの“洪水”がもたらす弊害と解決策
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