情報システムの“ユーザー企業”にとって、情報システムをどう活用すれば競争力を強化できるのか。ITベンダーやシステム・インテグレーターなどの営業トークや提案内容を見極めるうえで何に留意するべきか。ITベンダーなどに何かを求める以前に、“ユーザー企業”が最低限考えなればいけないことは何か――。
野村総合研究所で約20年間勤務した後に、人材派遣大手スタッフサービスのCIO(最高情報責任者)を務め急成長を支えた著者が、情報システムの“ユーザー企業”の経営者・担当者の視点から、効果的な情報化のための発想法を解説する。
前回(第9回)では、景気に売り上げが左右されやすい“ユーザー企業”の代表格であるアパレル企業を例にとって、IT(情報技術)を活用しながら、情報を迅速につかんで行動に移すことの重要性を説明しました。今回はもう少し具体的に、“ユーザー企業”の考えるべきことを書きます。
2008年9月のリーマン・ショック後には、景気が急激に冷え込みました。しかし、こうした「明らかな不況」は、そうそう起きるものではありません。現実には、「やや景気が良い」「やや悪い」という状況がほとんどです。
「今売れているもの」が分かっても、行動に結びつかず
さらに、何は売れているが何は売れていない、どこでは売れているがどこでは売れていない、誰は買っているが誰は買うのをやめた、などの状況も「まだら模様」であるはずです。高度経済成長期の日本のように、全国一律で同じ物が同じように売れるという時代は、何十年も前に終わってしまったのです。
誰でも、どんな企業でも、「今売れているもの」や「売れていないもの」は認識できます。コンピュータなどが無くてもヒット商品は明らかですし、売れていない商品は店頭で見れば分かります。重要なのは「何が売れ出したか」「何が売れなくなってきたか」という変化をどれだけ早く的確に把握し、その変化に応じた行動を迅速に実行し、行動の成果を出すことです。
さらに進んだ企業であれば、「それが売れ出したならばこれが売れなくなるはずだ」「これがこの理由で売れているのならば、あの商品の売り方も変えればもっと売れるはずだ」といった仮説を構築し、その検証を情報化によって確認するレベルに至ります。
残念ながら、多くの“ユーザー企業”は、ITの発達によって「販売情報を迅速につかむ」ことぐらいはできるようになったものの、それによって着手すべき行動が迅速になってはいません。「特許で守られた製品を独占供給している」といった企業でもない限り、変化に対応して行動を変えることが必要不可欠です。厳しい自然環境の中で生きる動物のように、常に環境変化を予測・察知し、生き延びられるように行動を変えなければなりません。