システム関連のプロジェクトにおいて、PMO(プロジェクトマネジメントオフィス)の活動範囲は、必ずしもシステムを稼働させるまでのフェーズだけではない。とかく後手に回ったり、属人的になったりしやすい保守・運用フェーズにおいても、PMOのマネジメント能力を生かせる場がある。

長谷川 竜
マネジメントソリューションズ マネージャー


 一般的にシステムの保守・運用フェーズでは、障害や問い合わせの発生数を最小化し、リソースとコストを最小化することが求められています。あるいは、保守・運用の現場が既存システムの改善や新システムの企画立案をすることで、プロフィットセンター化しようとする動きもあります。

 しかし、現実はどうでしょうか。多くの保守・運用の現場では、まだ十分にマネジメントできているとは言い難い状況です。キーワードを挙げるとするなら、「後手の対応」「情報共有不足」「属人的」といったところでしょうか。今回はこの課題を取り上げ、適切にマネジメントするための仕組み作りについて考えていきましょう。

問い合わせ発生数を減らすために

 保守・運用フェーズにおいて、システム利用者からの問い合わせ発生数や解消数を把握することは簡単ですが、それが健全なマネジメントの本質でないことはご存知のとおりです。重要なのは、障害の根本原因を追及し、適切な対策をとるための活動を続けることです。

 ただし、問い合わせ発生数を抑えようとする場合、「適切な対策をいつ打つか」という点で、マネジメントのレベルが違ってきます。

 例えば、昨日と今日でユーザビリティが少し違うだけでも、利用者から何件もの問い合わせが発生するかもしれません。また、決算期や繁忙期には、利用者数が通常より大幅に増えたり、日頃は行わない例外的なオペレーションが増えたりして、一時的に問い合わせが増加するものです。

 このような傾向はある程度予測できますが、実際には問い合わせが増加することを黙認していたり、問い合わせが来てから対応するケースが多いのではないでしょうか。ユーザーの満足度や問い合わせ・対応にかける時間コストを判断基準にしないまま、こうした対応を続けることは、適切なマネジメントとは言えません。

 本来なら、問い合わせを発生させないための手を事前に打つべきです。問い合わせの発生数を、年間を通して平準化しなければ、発生数の多い期間に対応できるだけのリソースを準備しなければなりません。問い合わせ数の変動をできる限り減らし、最小限のリソースに抑える努力が必要でしょう。

 適切にマネジメントするには、システムのオーナー(発注者側)が主導的な立場をとり、例えば「問い合わせ発生数○○件以下」といった年間目標を立て、目標達成に向けたアクションを継続的に実施する必要があります。PMOの役割としては、目標の設定、情報の収集、原因の追及、事後・事前対策の検討、効果測定をはじめ、これらを実施するための計画立案に主体的に参画し、関係者に働きかけていくでしょう。PMOが得意とする任務です。

障害対応の迅速化、再発防止策の品質アップのために

 繰り返しになりますが、問い合わせやシステム障害の発生・解消数を把握することは簡単です。しかし、稼働してから半年以上経つのに、一向に障害の発生数が減らない、ときには障害が増え続けるケースにさえ出会うことがあります。保守・運用フェーズになると、1件の問題解消にかかるコストが設計/開発フェーズに比べて増大します。そのコストを削減するための仕組み作りが必要です。

 これも問い合わせ件数をマネジメントする場合と同じように、根本原因を追究し、その原因に対して直接的な対応をとることで再発を防ぐ活動を継続することが基本です。

 ただし、障害への対応は問い合わせのケースとかなり異なる部分もあります。事前に手を打てるタイプの障害は比較的少ないので、障害発生後の復旧の迅速さや再発防止策のクオリティを高める仕組みの巧緻さでマネジメントのレベルが決まります。障害の影響度、同一原因による別の障害の可能性、類似した別の原因による障害の可能性に目を配りつつ、障害対応時には、プログラムのバージョン管理や、改修によってほかの機能に影響が出るデグレーションを防ぐための対策も考慮しなければいけません。