ICTタスクフォースは,ICT全般を幅広く扱っている。その狙いは何か。

 これまでの審議会や作業部会は,一つの課題に対処するだけだった。継続性を重視するときはいいが,大変革が求められるときには適さない。

 政権が代わった今,これまでの枠組みにとらわれず,大上段からいろいろと議論をしようと考え,タスクフォースという形を採った。

ICTタスクフォースのテーマは,環境や教育など総務省の所轄を越えた日本のICT戦略全般にかかわる話題が出てくる。今後どう展開しようと考えているのか。

内藤 正光(ないとう・まさみつ)氏
写真:的野 弘路

 今回のタスクフォースは,向こう1年にわたって,議論する。ただし,原口大臣が発足時の会合で示したように,1年後に結論を出してその後で動くのではなく,できる施策は即実行していく。他省庁を巻き込む必要があれば,当然対応していく。

 そのためには,まずは総務省としての考えをまとめる必要がある。これまではICTの利活用といったとき,「便利になる」程度の利便性しか打ち出してこなかった。そのため,総務省が旗を振っても,他省庁がなかなか動かない状態が続いてきた。

 私はこの点に問題意識があった。鳩山内閣すべてが共感できる大きな目標をタスクフォースで作り上げたい。ICTの持つ可能性は,単に人と人とをつなげるだけではなく,環境問題,教育問題,貧困問題など地球規模の課題解決に貢献できる。

政府のIT戦略の陣頭指揮を執っていたIT戦略本部は今後どうなるのか。

 私たちが,IT戦略本部に取って代わろうというつもりはない。内閣全体としてIT戦略を立案するのは,あくまでIT戦略本部であるべきだ。しかしこのまま総務省として何もしないでいたら,IT戦略本部はこれまで通り各省庁を単につなぎ合わせる“ホッチキス留め”のままだ。そうならないように総務省としても問題提起をしていきたい。ICTタスクフォースでICTが持つ様々な潜在力をしっかり議論し,その思いをIT戦略本部にぶつけていく。

ICTタスクフォースでは,グローバルな視点が強調されている。これまでの議論はどちらかと言えば国内市場に向いていた。

 この際,ICTと電気通信の市場を再認識すべきだと考えている。

 ICTは,ソフト・コンテンツ市場を含め幅広い産業分野を包括している。その市場規模は今や国内で140兆円。ところが旧来の通信サービスなど電気通信産業の市場規模は20兆円に満たない。しかもこの20兆円の市場は,値下げ圧力が大きく働いているため成長性がほとんどない。

 20数年前の通信自由化直後は,電気通信市場がICT市場そのものだった。電気通信を論じていれば,それがICTを論じていることになった。ところが,ICTと電気通信はだんだん乖離(かいり)し,ICT分野が大きく成長してきた。それにもかかわらず,今なお日本は電気通信ばかりに目を向けている。そこが最も大きい問題ではないか。

 今大きく飛躍しているのは,実は米グーグルや米アップルなどによる,電気通信分野ではないICT。つまりソフト・コンテンツの分野だ。フィンランドのノキアも,端末メーカーからソフト・コンテンツ分野に自分たちの活動範囲を広げようとしている。日本が世界に打ち勝つには,ソフト・コンテンツの分野でいかに競争力を高めるかだ。そのための議論が必要だと考えている。

通信事業も,インフラ中心の発想を変えていく必要があるということか。

 その通りだが,残念ながら今は国として,NTTをはじめとする通信事業者の活動範囲を縛ることをしている。私はNTT出身だからとやかく言われてしまうが,我が国のICT発展という観点から電気通信事業者を縛り付ける発想はやめるべきだと考えている。業務範囲をもっと自由にすべきではないか。

 事前に通信事業者の業務範囲を決める事前規制から事後規制へと,行政は転換を図る必要がある。その際のルールは,消費者視点で公正競争を確保することだ。

 このようなルールに沿って通信事業者には,リソースを最大限に活用しながら,国内だけでなく世界に飛び立ってもらいたい。そのための競争環境を作り上げていく必要がある。

これまで総務省は設備競争に重点を置いてきた。この点についてはどう考えているのか。

内藤 正光(ないとう・まさみつ)氏
写真:的野 弘路

 設備競争というよりも,開放政策に重きを置き過ぎてきたと感じている。資金力がない事業者に参入の道を作るために開放政策は重要だが,設備投資のインセンティブを与えるための施策が必要ではないか。開放政策と設備投資のインセンティブのバランスを図っていくことが重要だと考えている。現在は設備投資のインセンティブが働きにくく,むしろ借りた方が得な状況になっている。

 電気通信分野では,設備競争が働かないと料金の低廉化や技術の高度化が続かない。ブロードバンドというと光ファイバを思い浮かべるが,今では高速無線アクセスがある。光ファイバと比べて,コストやインフラ整備のしやすさで利点が多い。

ICTタスクフォースの議論は,ユーザーにどのようなメリットをもたらすのか。

 ICTタスクフォースには,電気通信市場の環境変化への対応検討部会がある。ここでユーザーのメリットを念頭に置いた議論が展開されるだろう。

 これまでは光ファイバのシェアや移動体分野のシェアなど,特定市場のシェアを議論し,規制の強弱を付けてきた。しかしユーザーの立場では,いまやサービスは通信と放送,移動と固定とが複雑に融合している。パッケージとしてサービスを受け取っているのではないか。このような発想で議論する必要がある。

 競争政策は必要だが,ある一つのマーケット・シェアで議論する段階は終わった。ユーザーの立場から,新たに定義し直された融合マーケットのシェアで議論すべきだ。光ファイバのシェアだけを見るなら簡単だが,大きな課題は融合マーケットの定義方法だ。これを進めない限り,ユーザーの視点に立った議論がいつまでもできない。

NTTの在り方については,どのように考えるのか。

 竹中平蔵総務大臣のときの「骨太方針」に明記された項目は,あまりにも矮小(わいしょう)化された議論だと考えている。ICT分野が広がっているにもかかわらず,電気通信産業の,しかも組織論に矮小化された議論をしていては日本の国際競争力は高まらない。

 もっとも,民間会社となっているNTTの組織の在り方を,国や部外者が議論するのは不健全だ。むしろNTT自身がこれからのグローバルなICT競争を戦い抜いていくために,どういうフォーメーションにしたいのかを自ら示すことからすべての議論が始まると考えている。

総務副大臣 民主党参議院議員
内藤 正光(ないとう・まさみつ)氏
1964年,愛知県高浜市生まれ。県立岡崎高校卒業。東京大学理学部大学院では素粒子物理を専攻。88年にNTTに入社。技術者として10年間勤務する。98年7月に参議院比例代表として参議院議員初当選。現在2期目。拉致問題特別委員長,参議院総務委員長を歴任。党では総務部門「通信・放送の在り方」検討作業チーム座長を務める。鳩山内閣で総務副大臣に就任。

(聞き手は,松本 敏明=日経コミュニケーション編集長,取材日:2009年11月5日)