RFP作成からベンダー選定の期間は本連載の「RFP作成からベンダー選定におけるプロジェクト管理 スケジュールの組み方」で述べた通り,一部の官庁や大企業の巨大システムを例外とすれば,3カ月から6カ月というのが一つの目安になる。ベンダーの提案書作成期間や最終的な社内でのベンダー決定の期間などを考慮すると,実際にRFPを作成するための調査や文書作成の期間は想像以上に短く,余裕はない。

 従って,RFP作成チーム内やベンダーとのコミュニケーションのロスがあると,すぐさまスケジュール的に苦しい状況に追い込まれる。プロジェクト管理の観点から見れば,スコープの部分で妥協して,RFPの品質(要求の詳細さやドキュメントとしての完成度)を落とすか,スケジュールを延ばすかのどちらかの選択を迫られる。あるいはコストを増やす(人を増員する)という選択肢も検討しなければならないかもしれない。

 システム構築に向けての初期の段階であるRFP作成において,早々とコミュニケーション・ロスによる問題が生じているようでは,その先の開発プロジェクトの先行きは非常に危ういものとなるであろう。

 このRFP作成およびベンダー選定のような短期間のプロジェクトにおいては,何をさておいても「最初に多くのコミュニケーションを取る」ことが肝要である。初期の段階できちんとコミュニケーションを図り,チームの方向性を一致させるように努めなければならない。手戻りの時間はほとんどないのである。

 特に,プロジェクト・マネージャはこの点を強く意識する必要がある。この「最初に多くのコミュニケーションを取る」ことはプロジェクト全体だけでなく,個々のタスクにおいても,ある日の作業においても基本は一緒である。

 以下では,RFP作成プロジェクトのさまざまな場面で必要となる初期コミュニケーションについて見ていこう。

(1)プロジェクト全体の初期コミュニケーション
 本連載の最初の「趣旨(目的・背景・狙い)の実践的なまとめ方 趣旨はRFPの『ミッションステートメント』」で説明したように,RFPの趣旨は調達フェーズおよびその後の開発フェーズにおいて,大変重要な指針となる。RFP作成チーム全体でコミュニケーションを十分に図り,趣旨を共有することが成功のカギである。また,コンペに参加するベンダーにきちんと趣旨を理解してもらえるかどうかが,正鵠を射た提案書が出てくる確率を左右する。

 実際に筆者は,3カ月で契約したRFP作成を中心としたコンサルティングで,趣旨の共有だけで1カ月を費やしたことがある。そのプロジェクトはもちろん成功であった。その反対に趣旨を字面だけでさっと決めてしまい,後のフェーズで「軸」がぶれてしまい,ひどく苦しんだプロジェクトもあった。

(2)各タスクの初期コミュニケーション
 エンドユーザーへのヒアリングや業務要求の取りまとめといった,RFP作成作業のそれぞれのタスクを行う場合,やはりその最初にきちんとチーム内でコミュニケーションを取り,そのタスクの方針やアウトプット・イメージを共有しておく必要がある。

 例えばエンドユーザー・ヒアリングでは,最初はチーム全員が参加してヒアリングを行うとよい。質問項目や質問の仕方,聞き取った内容のまとめ方などをよく話し合って,共有し,標準とする。これを行っておけば,その後個々の聞き手がそれぞれ別にヒアリングを行っても個人差が少なくて済む。

 プロジェクト・マネージャは,できる限り個々の聞き手の最初のヒアリングに立ち会い,全員参加で決めた標準との「ズレ」があれば指摘するとなおよい。これを怠ると聞き手によりヒアリング結果にバラつきが生じ,ある相手には再度ヒアリングを申し込んで補足しなければならない事態が生じるリスクがある。当然スケジュールは狂うし,聞き手の不手際により再度ヒアリングに付き合わされる相手にも不快感を与えてしまうかもしれない。

(3)日々の作業の初期コミュニケーション
 日々の作業でも,初期コミュニケーションは重要である。例えば,ある日の朝9時から,チーム全員で手分けしてある資料を作成するとしよう。終了目標時刻は17時である。このようなスケジュールの場合,筆者は以下のようなコミュニケーションを取ることを実践している。

 それは,早い段階で複数回のチェック(状況を見て,話し合って,軌道修正する)を実施することだ。チェック自体の時間は短くてよい。大事なのはタイミングと回数である(図2)。

図2●日々の作業における初期コミュニケーションのメリット
図2●日々の作業における初期コミュニケーションのメリット

・9時~9時30分:作業の方針やアウトプット・イメージを話し合う。
・10時15分:最初のチェックを行う。最初に決めた方針とズレた作業を行なっている者がいないか,何をしたらよいか迷っている者がいないかチェックし,いれば指導する。
・11時15分:2度目のチェック。先ほど指導した者が軌道修正されているか確認。同時に先走って違う方向に進んでいる者がいないかも確認する。
・12時:1時間の昼休み。しっかり栄養補給と休息を取ることも大事である。
・13時:全体の進捗確認を行う。遅れていれば終了時間か作業内容のどちらかの調整を行うか,あるいは後で行う可能性を想定しておく。
・15時か15時30分ごろ:進捗を見ながら,進捗確認のための軽めのチェックを行う。午前中の早い段階で2度のチェックを行っていると午後は作業に集中させても大丈夫な場合が多い。
・17時:当初終了予定の17時になったら,一度全員で打合せを行う。遅延していた場合はこのまま作業を継続するか,翌日に持ち越すか決定する。

 上記のやり方をすれば,スケジュール通り終了するか,遅延してもわずかな時間で済む場合が多い。逆に,午前中にチェックを行わずに昼食後初めて確認するようなやり方であると,遅延リスクの確率は上昇する。もし最初のチェックが15時ごろだとすれば,ほぼ確実に大幅な残業が発生することになるだろう。

 最初のチェックは開始後1時間以内に行い,2度目も同様に短いインターバルでやったほうがよい。2度やればたいてい軌道修正はできる。もし最初のチェックが15時だと,最悪の場合それまでの5時間の作業が無駄になってしまうリスクがある。そこからやり直すと終了は22時だ。早期に繰り返しチーム内でコミュニケーションを取り,間違った方向に進まないようにすることは作業効率上非常に大きな効果がある。


永井 昭弘(ながい あきひろ)
1963年東京都出身。イントリーグ代表取締役社長兼CEO,NPO法人全国異業種グループネットワークフォーラム(INF)副理事長。日本IBMの金融担当SEを経て,ベンチャー系ITコンサルのイントリーグに参画,96年社長に就任。多数のIT案件のコーディネーションおよびコンサルティング,RFP作成支援などを手掛ける。著書に「RFP&提案書完全マニュアル」(日経BP社)。