2010年は、これから10年先の社会システムや企業情報システムを支えられるだけのIT基盤(Enterprise Platform)がどうあるべきか、そのグランドデザインを描く年となる。そのためにも2020年に社会や個々の企業がどうあるべきか、どうなりたいかの議論を始めたい。

 2008年の金融危機を発端とした経済不況は、2010年を迎えた今も大きな影を落とし、その先行きに予断を許さない。2009年に大幅に絞り込まれたIT投資についても、2010年は楽観的にみても横ばいが限界ではないだろうか。とはいえ、いつまでも足踏みを続けているわけにもいかない。“次の一歩”を踏み出すための備えが必要だ。

 前回の年始の記事で筆者は、2009年のテーマに「Platform Conscious(プラットフォーム・コンシャス)」を挙げた。業務システムありきで個別最適が進んできたこれまでのIT環境を見直し、アプリケーションから独立したIT基盤の確立を目指すものである。そこでは、進化し続けるITの価値を最大限に生かした統合と自動化によるコスト削減効果を手に入れられる。

 加えて、進化の一方で、複雑化するITをIT基盤内に隠ぺいすることにより、アプリケーションのあり方を考えたい業務部門を、ITそのものの調達業務から解放できる。利用部門は、より現場のニーズに即したアプリケーションの企画や、その利用技術を高めることに専念できる。

 Platform Conscious(プラットフォーム・コンシャス)の動きは、IT基盤の中核をなす仮想化技術の適用事例の広がりや、米グーグルに代表されるクラウドコンピューティングの台頭に現れている。

失われた10年に続き、“失われつつある”10年

 だからといって仮想化技術を導入したり、グーグルなどのクラウドコンピューティング・サービスを利用したりできれば良いと考えるのは早計だ。これからのIT基盤像がぼんやりとはいえ見え始めた今こそ、“次の10年”を視野に入れたIT基盤のあり方を考えたい。新たなIT基盤、すわなち「Platform NEO」の実現を目指すべきである。

 Platform NEOが求められる背景を考える前に、21世紀最初の10年を振り返ってほしい。直前の1990年代は、オープンシステムの基幹系への浸透や、西暦2000年(Y2K)問題への対応などに追われ、「失われた10年」と評された。しかし、今に至るこの10年間を見ても、その状況が大きく変わったとは思えない。

 バブル崩壊後のIT業界は、価格崩壊の呪縛から逃れようと事業領域の拡大に専念した。コンサルティング事業や、競合・周辺のアプリケーションベンダーの買収である。結果、米ヒューレット・パッカード(HP)や米オラクルなどに代表される“メガベンダー”が誕生したわけだ。だが、それによってITのアーキテクチャやビジネスモデルが大きく変化したとは言い難い。

 特に日本市場においては、海外ベンダーのM&A(企業の統合・買収)劇や、それに伴う体制変更などに振り回された感が強い。さらに内部統制の強化といった外的要因への対応が最優先課題に浮上したり、情報漏洩事件などにおいてITが“悪役”にされたりして、ITへの信頼感が低下した。進むべき道を自らが決めなかったことで、21世紀最初の10年はまさに“失われつつある10年”になろうとしているのだ。