日経ニューメディア編集長 田中正晴

 民主党政権に変わり、通信・放送政策を検討する場が相次いで活動を開始した。「グローバル時代におけるICT政策に関するタスクフォース」、「新たな電波の活用ビジョンに関する検討チーム」、「今後のICT分野における国民の権利保障等の在り方を考えるフォーラム」、「光ブロードバンドの活用方策検討チーム」などである。2009年末には「原口ビジョン」が発表され、情報通信文化省構想も公表された。こうした一連の動きは、2010年以降の情報通信政策に大きな影響を与えそうである。

 こうした行政の動きが活発に展開される一方で、通信・放送関係者はある企業の動きを固唾を飲んで見守っている。それは、日本最大のケーブルテレビ会社(MSO)であるジュピターテレコム(J:COM)の親会社の行方である。

通信・放送の競争状況が一変する可能性も

 ジュピターテレコムの最大株主は、「住商/LGIスーパーメディア」という会社で、出資比率は過半数を超える。この住商/LGIスーパーメディアという会社は、米リバティ・グローバル・インクおよび住友商事の合弁会社であるが、実質的にリバティ・グローバル・インクが議決権を100%保有している。つまり、J:COMは、リバティ・グローバル・インクの子会社であり、住友商事はJ:COMを持分法適用関連会社としているという位置付けである。そして、住商/LGIスーパーメディアは、例えば住友商事の2009年3月期のアニュアル・レポートなどにも明記されていることなのだが、「住友商事とリバティ・グローバル・インクが延長の合意をしない限り、2010年2月に解散する」ことになっている。つまり、J:COMの親会社が変更になる可能性があるわけだ。

 通信・放送の世界におけるJ:COMの存在感は非常に大きい。加入者数は300万世帯を超え、ホームパスは1200万世帯を超える。例えばCS放送などのチャンネルを展開する各番組供給事業者にとっては、J:COMに採用されるかどうか、でチャンネル経営の運命が大きく左右されると言っても過言ではない。地上波の放送事業者にとってもVOD(ビデオ・オンデマンド)事業を展開するときに、テレビにセットトップ・ボックス経由でブロードバンド回線がつながっているJ:COMのユーザーは、最大のターゲットである。

 通信事業に目を振り向けても、FTTHを推進するNTTグループに対して、家庭への足回り回線を含めたインフラ設備の投資を伴う形で競争を展開している最大手事業者と位置付けられる。地域別には、電力系子会社などとも激しく競争を繰り広げている。

 J:COMの企業価値は非常に高く、新たに同社を傘下に収めようとすると膨大な資本が必要となる。そうなると、名乗りを挙げられる候補は相当に絞られる。J:COMの親会社が変更になるのかどうかは、米リバティ・グローバル・インクを率いるマロ-ン氏が決断できるだけの提案を、この限られた候補の会社が行えるのか、がカギである。

 放送関連では言えば、携帯端末向けマルチメディア放送の事業者をどうするか、というテーマがある。予定では2010年はハード/ソフト事業者が確定する見込みであるが、ラジオ局の関心の高いVHF帯のローバンドを利用した放送については、内藤正光総務副大臣が現状に疑問を抱いており(関連記事)、仕切り直しになる可能性もとりざたされる状況だ。

 衛星放送に目を向けると、新規BS事業者の認定が予定されている。昨年は5本分のトランスポンダについて、委託放送事業者が認定された。このときは、事業者の顔ぶれを見るとすべて有料放送(放送大学学園を除く)だった。そして、有力な番組事業者では、無料放送として申請を出していたウォルト・ディズニー・ジャパンが落選した。2010年5月には、残るトランスポンダ2本分に認定申請の受付開始が予定されている。ディズニーは無料放送として今回も申請するのか、また無料放送の新規参入が認められるのか、など興味が持たれるところだ。