無線通信のさらなる高速化、無線通信のハイブリッド化、Android端末を中心としたネットワーク端末の充実、新しいタイプのコミュニケーション・ツールの台頭、そしてクラウド・コンピューティングの浸透――。これらの動きを背景に、2010年は企業ネットワークに変化が起こる。具体的には、(1)第3世代携帯電話(3G)など無線ブロードバンドのWANとしての利用定着、(2)固定/モバイルどちらの環境からも使える新しいコミュニケーション・ツールの導入、(3)ネットワークの品質の考え方の変化である。どれも、目新しい話ではないが、2010年に注目される話題だと思っている。

 まずモバイル関連では、高速な無線通信サービスの充実と、ネットブックやスマートフォンをはじめとする端末の多様化により、企業内でも多くの場面で無線をWANとして使うようになる。いつでも、どこでも、快適な通信環境を手に入れられるようになるわけだ。

 無線通信サービスは年々高速化が進んでいる。2009年にはUQコミュニケーションズがモバイルWiMAXのサービスを、イー・モバイルが下り最大21Mビット/秒のHSPA+(high speed packet access plus)のサービスを開始した。ウィルコムのXGPは上り/下りともに最大20Mビット/秒である。そして2010年は、NTTドコモが第3.9世代のLTE(long term evolution)の商用サービスを始めるほか、イー・モバイルがDC-HSPA(dual-cell HSPA)などの高速なサービスの提供を開始する。こうなると無線ブロードバンドは、有線のWANサービスに十分匹敵する選択肢になる。

 高速化が進むと同時に、モバイル端末には複数の無線通信技術/サービスが統合され、連係する形で動作するようになる。その一例がイー・モバイルが提供し始めたPocket WiFiである。Pocket WiFiは第3世代携帯電話をWANとして使う、携帯型のルーター兼無線LANアクセス・ポイント。これにより、無線LANの不感区域を3Gでカバーできる。ユーザーにとってみれば、公衆無線LANのアクセス・ポイントが近くにない場所でも、ネットに接続できる。

 さらに言えば、複数の通信手段を自動的に使い分ける、いわゆるコグニティブ無線が現実のものになる。そうなれば、WANとしての3G利用はもっと進むかもしれない。

 一方で、端末からのアクセス先となる情報システムはクラウド・コンピューティング型への移行がますます進む。このため、パソコンからでもモバイル端末からでも、同じ利用環境を手に入れられる。データはすべてクラウド上にあるため、場所や時間、利用する端末を気にする必要は全くない。こうした環境が整うと、10年ほど前に盛んに叫ばれた「ユビキタス・ネットワーク」が現実味を帯びてくる。

企業内でのTwitter活用が始まる

 二つ目は、SNS(social networking service)などのコミュニケーション・ツールの企業内導入である。日本では数年前に、一部のユーザーがブログ/SNSの効果に着目し、社内システムとして導入した。ところが、多くの企業ユーザーには“遊びの道具”という印象が強く、結局、浸透するという状況には至らなかった。

 それがここへきて、再び社内SNS導入の機運が高まりつつあるらしい。ITコンサルタントによると、「最近、メールをやめてENS(enterprise networking service)に乗り換えようという企業が増えている」という。その原動力になっていると見られるのが、ミニブログのTwitterだ。従来のSNSやブログと違って、リアルタイムに流れる「つぶやき」(ツイート)をユーザーが互いにチェック(フォロー)することでコミュニケーションをとることができる。

 社内・社外の相手とのコミュニケーションにTwitterを活用するユーザーはゲリラ的に広がっている。もちろん、広範囲のユーザーに情報を見せることになるため、入力する内容を制限するかどうかなどのポリシーを決める必要はある。この点は従来のブログ/SNSと同様だ。それでも最近は、一部のコンサルティング会社などがENSのポリシー策定支援を手掛けるなど、以前の社内SNSブームのときよりも環境は整ってきそうだ。