読者の皆様、明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

 さて、今から1年半ほど前のこと。ITproと日経コンピュータが共同運営する特番サイト「SaaS & Enterprise2.0」の名称を「クラウド」に変更するかどうかで大いにもめたことを思い出します。

 「クラウドなんてバズワード(実体が明確でない“はやり言葉”)だろ」。「SaaS(Software as a Service)でさえASP(Application Service Provider)との境界があいまいだ。ましてクラウドなんて、あっという間に忘れられてしまうんじゃないか」。

 結局、そんな慎重派の声よりも、クラウド推進派の声が少し上回って、サイト名を現在の「エンタープライズ・クラウド」に変えました。今や当時の議論がウソのように思えるほど、クラウドはIT関係者の最大の関心事の一つであり、システム構築・運用の手段を考える際に欠かせない、重要かつ現実的な選択肢となっています。

 この勢いが2010年に加速することは間違いありません。「そんなの当たり前だろ」という突っ込みが返って来そうですが、理由は何でしょうか?

 アマゾン、グーグル、セールスフォースといった“クラウド・ネイティブ”の企業に加え、IBMやマイクロソフト、国産の主要ベンダーやインテグレータなどが、続々とクラウド・サービスに本腰を入れ始めたことでしょうか?もちろん、こうしたIT業界の動きも大きな要因ですが、それだけではありません。

 より重要な理由は、2009年にかつてない厳しい経営環境に置かれた企業ユーザーが、クラウドをきっかけに、ITを利活用することの意味を突き詰めて考えるようになったことだと思います。

 当初はクラウドの特徴として、利用料金の安さ(サービスによっては無料)や、利用可能なコンピュータ資源の膨大さ(サービスによっては事実上無制限)が強調される傾向がありました。しかし今では、企業ユーザーの多くが、「ビジネス上の需要の変化に対して、システム面でもコスト面でも、柔軟に対応できること」こそがクラウドの価値であることを理解しています。

 新規事業のためにごく短期間でシステムを立ち上げたり、サービス規模の拡大・縮小に応じてシステムの処理能力を極端に増減したりすることは困難――。そうしたオンプレミス(企業がハードウエアやソフトウエアを自前で用意して運用すること)の限界を打ち破ったのがクラウドでした。

 “緊縮財政”を強いられた企業にとって、従量制課金が一般的なクラウドは、コスト面でも大きなインパクトをもたらしました。従来なら固定費として処理していたハードウエアやソフトウエアへの支出を、変動費として処理できるようになり、結果的にIT投資のムダを大幅に軽減できる可能性があるからです。

 こうしたシステム面とコスト面の柔軟性によってビジネスに貢献しうるクラウドは、厳しい経営環境が続く2010年に、企業が真剣に検討する価値のあるITソリューションの代表格といっていいでしょう。

 「システム面とコスト面の柔軟性によってビジネスに貢献しうる」という意味では、「仮想化」もクラウドに引けを取りません。仮想マシン(Virtual Machine)をはじめとするサーバー仮想化技術によって、複数のサーバーのハードウエアを統合する取り組みは、既に多くの企業で始まっています。2010年にはデスクトップ、ストレージ、ネットワークといったサーバー以外のシステム・リソースに仮想化技術を適用する取り組みが、より活発になるでしょう。

 クラウドや仮想化とは全く違う意味で、企業が真剣な検討を強いられる案件もあります。国際会計基準(IFRS:International Financial Reporting Standards)への対応が、その代表例でしょう。企業がIFRSに対応しようとすれば、会計システムはもちろん、それと連携する基幹系システム全体の見直しにつながる可能性があるからです。

検討の価値あるITの情報を

 企業が真剣に検討する価値のあるITの例として、クラウド、仮想化、IFRSという三つのキーワードを挙げました。あえて「真剣に検討する」としたのは、2010年にはこれまで以上に、IT化案件の優先順位づけがシビアになると考えるからです。

 調査会社のガートナーが世界のCIO(最高情報責任者)を対象に実施した調査によれば、日本企業の年商に占めるIT投資の比率はわずか1.1%で、海外企業に比べてずっと低い値です(「調査で判明、日本企業が抱えるIT投資の課題とは」)。にもかかわらず、そのIT投資に占める新規投資の割合は約20%にすぎず、残り約80%が既存システムの維持に充てられています。

 厳しい経営環境の中で、本来削るべきは既存システム維持への投資であるはずなのに、ビジネスに直結する新規投資の凍結・延期を強いられたのが2009年でした。

 だからこそ2010年には、企業は優先順位をしっかり見極めたうえで、個々のIT化案件を真剣に検討しなければなりません。そのためには2009年と同様、ITを利活用することの意味を突き詰めて考えることが必要となるでしょう。

 ITproは、そうした価値ある情報を分かりやすい形で読者に伝えるべく、今春にサイト・リニューアルを実施する予定です。

 まず、クラウド、仮想化、IFRSといった優先順位の高い分野の情報については、“ホットテーマ”あるいは“ホットトピック”として、日経BP社の各媒体と連携しながら、重点的に情報を発信していきます。さらに、ニュースやインタビュー、解説、コラムといった日々の情報発信に加えて、1~2週間単位で企画する特集記事をより前面に打ち出します。

 ITproの姉妹サイトである「selfup」と「ITpro Data」についても、それぞれの視点で価値ある情報の発信に努めます。

 selfupでは、若いITパーソンのスキルアップ/キャリアアップを支援するコンテンツのいっそうの充実を図るとともに、モバイル端末を使った就活学生向けの情報発信など、新しい試みを計画しています。ITpro Dataでは、IT導入担当者の日常業務に役立つ製品/サービス・データベースとなるべく、情報の拡充と品質向上を進めます。

 もちろん、書籍、ムック、セミナー、イベントといったWeb以外のチャネルを駆使したクロスメディア展開にも力を入れます。“100日間イベント”であるITpro EXPO 2010は、例年より少し早い8月下旬から12月上旬まで開催(メインの展示会は10月18~20日)。2009年に試みたバーチャル展示会の企画も強化する予定です。ご期待ください。