12月も半ばを過ぎ、受験生はいよいよ最後の追い込みの時期に入ったところだろうか。そういえば12月16日、厚生労働省は新型インフルエンザワクチンの接種回数について、中学、高校生にあたる13~18歳を原則1回にすることに決めたと発表した。それまで2回だったが、1回でも十分な免疫効果が得られることが分かったためだという。これに伴い優先接種のスケジュールも変更された。高校生の接種開始時期は1月後半だったものが年明けに、65歳以上の高齢者は2月前半から1月後半に前倒しされる見通しになった。

 既に自治体の中には、受験生に当たる中学3年生と高校3年生については、新型インフルエンザワクチンの接種時期をさらに前倒しとし、12月21日から始めたところもある。こうした対応を巡り、「高校生が優先接種の対象になった一方、浪人生が外れたことに不満や不安の声が上がっている」との新聞記事も見られた。実際、22日朝のテレビのニュース番組では、浪人生が「大学受験をする面で不公平だと思う」と訴えていた。浪人生は一般の成人に該当するため、現行のままだと接種開始時期は2月以降になる可能性もあるからだ。

 そうした浪人生の切実な気持ちも分かるが、一方でニュース番組では、ワクチン接種を終えたばかりの高校3年生が、「これで新型インフルエンザにかかる心配がなくなってほっとしています」といった内容のコメントをしていたので驚いた。そもそもインフルエンザの場合、ワクチンを接種したからといって100%インフルエンザにかからずに済むというわけではないのだが、一般の人にその事実はいまだ周知されていないのだろうか。しかも新型インフルエンザワクチンについては、今回初めて製造されたものなので、当然のことながらデータは限られていて、発症予防や重症化阻止に対する効果はまだ明らかではない。

 とはいっても、新型インフルエンザワクチンは、従来からの季節性インフルエンザワクチンと同じ製法で作られているため、効果も季節性の場合と同じであると考えられている。季節性インフルエンザワクチンについては、既にこれまでに、発症予防効果や重症化・死亡阻止効果に関する詳細な調査が行われている。日本では、65歳以上の健康な高齢者については、約45%の発病を阻止し、約80%の死亡を阻止する効果があったことが報告されている。また新型インフルエンザワクチンの安全性に関しても、現時点では季節性と大きな差はないとされる。

 しかし、新型インフルエンザの患者発生数はピークを過ぎつつあるともいわれている。浪人生をはじめ、優先接種の対象から外れた健康な成人は、もし今から接種を受けるとするなら、季節性インフルエンザのワクチンだけを受けてもよさそうな気がするが、どうなのだろうか。

 この疑問に対し、日本臨床内科医会インフルエンザ研究班班長の河合直樹氏(河合内科医院院長)は、「できれば新型と季節性の両方のワクチン接種を受けることが望ましい」とアドバイスしている。ただ今シーズンは、季節性インフルエンザワクチンについても、現場では供給不足の状態にあり、接種を希望しても受けられないケースがあるなどの混乱状況も生じている。また新型は、前述のように接種の順番が既にまわってきている世代とまだ順番が回ってくるまでに時間がかかる年代があるので、「かかりつけ医に相談するのが望ましい」と河合氏は話す。

 なお、インフルエンザに限らず、さまざまな冬の感染症が流行しているこの時期、ワクチン接種のためだけにわざわざ医療機関を受診するのも少しためらわれる。健康な成人ならワクチン接種を受けなくても、インフルエンザを発症したらすぐに医療機関を受診し、タミフルやリレンザを処方してもらうという方法も考えられる。それに、新型インフルエンザはかかっても、軽症のまま回復する人が多いとも聞く。しかし、これに対し河合氏は、「新型インフルエンザの場合、症状が軽いという声もあるようだが、一部の人では重症化しているので注意が必要だ」と付け加えている。

 12月半ばを過ぎた現在も、季節性インフルエンザの患者発生はほとんどみられておらず、今シーズンは新型インフルエンザが主流になるとの予測もある。「季節性のインフルエンザは例年、12月~3月頃に流行し、4月頃には終息するが、新型はまだ季節を問わずに流行している。4月以降も罹る可能性があるので、可能なら新型のワクチンは時期を問わずにした方がよいだろう」(河合氏)ということだ。

瀬川 博子(せがわ ひろこ)
国際基督教大学教養学部理学科卒。日本ロシュ研究所(現・中外製薬鎌倉研究所)勤務を経て、日経BP社に入社。雑誌「日経メディカル」編集部で長年にわたり、医学・医療分野、特に臨床記事の取材・執筆や編集を手がける。現在は日経メディカル開発編集長として、製薬企業の情報誌など医師向けの各種媒体の企画・編集を担当。