2009年12月20日に国連の気候変動枠組み条約締約国会議(COP15)が閉幕した。「ポスト京都議定書」すなわち2012年以降の国際的な温暖化対策の枠組みを決める重要な会議だったが、結局各国の削減義務については何も決まらなかった。環境問題で先進国と途上国の利害を調整し、共同歩調を取ることがいかに難しいかが、改めて浮き彫りになった。

 進んだ環境技術を持ち、環境立国を標榜する日本だが、国際社会においてはまたもリーダーシップを発揮することはできなかった。2009年9月に鳩山首相は国連で演説し、温暖化ガスを2020年までに1990年比25%削減する目標を先進国の中でいち早く表明。COP15でも日本政府は途上国の削減対策のために150億ドルを拠出する資金援助を打ち出したが、日本の存在感は薄かった。

エコプロダクツ展でIT各社が取り組みをアピール

 国際社会における中期的な削減義務は定まらなかったが、日本の産業界は温暖化対策の歩みを遅らせることは許されない。IT業界においても、ここにきて各社から環境への取り組みに関する発表が相次いだ。

写真1●エコプロダクツ展の富士通ブース
写真1●エコプロダクツ展の富士通ブース
環境と社会の関わりをテーマに、ITを活用した様々なソリューションの提案を行った。

 富士通は2009年12月7日、欧州、米国、アジアなど海外の関連会社を含めたグループ全体のIT製品やサービスにおける、CO2排出量削減の目標を公表した。2012年度末までの4年間で累計1500万トンの削減を目指すという。同社は「Green Policy Innovation」と銘打ち、グリーンITの取り組みを進めており、2009年12月9日~12日に東京ビッグサイトで開催されたエコプロダクツ展では、環境と社会の関わりをテーマにITを活用した様々なソリューションの提案を行った(写真1)。

 一方、三菱電機は、オフィスビルの省エネ支援などのクラウド型サービス「Green by Cloud」を強化する。同時に、電力使用量のデータを収集分析するソフトウエアのエントリモデル「MELGREEN Lite」や、電力使用状況をオフィスや店舗ごとに表示できるポータルサイト構築ソフト「DIALCSコミュニケーションポータル」などの製品/サービス群の提供を開始した(写真2、3)。

写真2●エコプロダクツ展の三菱電機ブース
写真2●エコプロダクツ展の三菱電機ブース
写真3●省エネ支援ソフトやサービスのデモを行った
写真3●省エネ支援ソフトやサービスのデモを行った

企業と地域、学術との連携が鍵に

 産業界における環境への取り組みの次なる課題は、個別企業の進んだ技術をいかに連携させ、ビジネスとして高度化すると共に、事業性を高めていくかである。というのも、国際社会で日本が環境技術の先進性をアピールできない理由として、排出量取引や環境税といった制度面の遅れと共に、「次世代の環境都市」のモデルを提示できていないことも影響している。実際のところ政府は、「環境モデル都市」として全国13都市を選定し、低炭素社会を実現する取り組みを支援してはいるが、事業主体の顔が見えにくく、今ひとつインパクトに欠ける。

 こうしたなか、ITエレクトロニクスや建設、不動産など異業種の企業が連携し、次世代環境都市モデルの構築を目指す「スマートシティプロジェクト」が2009年12月18日に始動した。千葉県柏市の柏の葉キャンパスを取り巻くエリアにおいて、環境や医療、教育といった各国に共通した課題解決に向け、具体的な「先進モデル」を提示していこうというのである。

写真4●スマートシティプロジェクトに参画する企業メンバー
写真4●スマートシティプロジェクトに参画する企業メンバー
左から5番目が三菱総合研究所理事長の小宮山宏氏。

 プロジェクトを推進するのは、元東京大学総長で三菱総合研究所理事長の小宮山宏氏が中心となって設立したフューチャーデザインセンター。興味深いのは、SAPや日本HP、シャープ、日建設計、三井不動産といった環境分野で独自の強みを持つ企業が参画していることだ(写真4)。「世界に売れる環境都市モデルの設計・構築技術及びノウハウを蓄積し、ビジネスそのものをプロデュースする」と小宮山氏は発言。各業界のキープレーヤーを巻き込んだところに、その本気度がうかがえる。

 参加企業の役割分担も明確である。SAPは、スマートグリッドを実現するためのIT技術で貢献する。例えば、電力・ガスなどのエネルギー管理を行うスマートメーターと、顧客・料金管理アプリケーションの統合などに取り組む。一方、日本HPは、世界で65%のシェアを持つ配電管理サービスや、ネットを利用した機器管理などの技術を提供していく。

写真5●エコプロダクツ展のシャープのブース
写真5●エコプロダクツ展のシャープのブース
排出量をゼロにするソーラービルディングの大型模型を展示。

 シャープは、太陽光発電パネルで世界トップレベルのシェアを持ち、プロジェクトでは電子機器との連携とエネルギー管理技術の向上に取り組む。太陽光発電装置の製造・販売から、発電モジュールを利用した省エネビルの提案、さらに地域のエネルギー管理(スマート・グリッド)と事業領域を拡大する構えだ。このためエコプロダクツ展においても、太陽光発電とエネルギー管理でCO2排出量をゼロにするソーラービルディングの大型模型を展示し、戦略をアピールした(写真5)。

 さて、今日から年末年始のお休みに入る読者も少なくないと思う。ITproのグリーンITサイトでは、環境問題の本質について考えるための素材を提供している(「温暖化のウソとホント」「地球が“謎の古代文明”になる前に」「環境問題はいつ始まったのか」)。この機会にぜひご一読いただければと思う。