地域IP網とは別に構築したひかり電話網では,加入電話と同じ番号が使えるIP電話,「ひかり電話」を提供している。このサービスでNTT東西は,大きなトラブルを経験した。「インターネット接続とは違って,ひかり電話は加入電話並みの信頼性を担保することが大前提。止まってしまえば総務省への説明責任も生じるし,それ以上に社会的な使命を果たせない」(NTT東日本の澁谷直樹ネットワーク事業推進本部設備部設備計画部門長)。

 こうしたトラブルの発生を防ぐために,次世代のIP網であるNGNの構築に当たってNTT東西が最も力を入れたテーマがひかり電話の信頼性向上だった。構造面では電話網を模して,激甚災害をも想定したう回ルートを確保する。「導入機器もキャリア・グレードの装置に統一した」(澁谷部門長)。

 例えば,以前のトラブル時に復旧が遅れる要因となった呼制御サーバーなどのサーバー群は,NGNではATCA規格という統一仕様でまとめた。通信事業者用に設計された共通ハードウエア仕様で,保守が容易になるという。「IP装置を安定運用するためには,ハードウエアを共通仕様に絞ることがポイントになる」(NTT西日本の築村佳典ネットワーク部ネットワーク設備部門NGN-NW担当部長)。

 NGNの商用化後も,東京の一部地域でひかり電話の通話ができなくなるトラブルが発生した。しかし以前とは違い,影響範囲はMA内の一部地域にとどまり,復旧にかかった時間は半日と深刻化はしなかった。「電話交換機の復旧ルーチンを参考に,遠隔地から短時間で再起動できる仕様にした」(澁谷部門長)と,ハードウエア運用の信頼性も高めている。

旧世代網とNGNが番号管理で連携

 現行のひかり電話網では,一部機能のNGNとの共通化と統合が,地域IP網/プレミアム網の統合に先行して始まっている(図1)。それはひかり電話網からNGNへの同番移行を実現しなくてはならなかったため。NGNとひかり電話網とが連携しないと解決できない問題だった。

図1●NGNへの移行はひかり電話から段階的に進める計画<br>既に一部の呼制御機能などはNGNの機能を使って実現している。
図1●NGNへの移行はひかり電話から段階的に進める計画
既に一部の呼制御機能などはNGNの機能を使って実現している。
[画像のクリックで拡大表示]

 NGNの商用化時点では,Bフレッツや光プレミアムの契約者が光ネクストに契約を切り替えたときに,加入電話からの移転番号ではない新規に取得したひかり電話の番号を,NGNのひかり電話に移行できなかった。

 その原因は,電話番号の管理システムが別々に稼働していたからである。この問題は2008年秋に,ひかり電話網内に登録が無くなった電話番号について,ひかり電話網の呼制御サーバーからNGNの番号管理システムに問い合わせできるようにしたことで解消した。

 こうした連携から始まり,「ひかり電話網が実施している呼処理を,徐々にNGNのハードウエア・リソースに分散させ始めている」(河野部門長)。NTT東西は,従来のひかり電話網に対しては,サーバーや伝送装置を新しいものに取り替えるといった追加投資は基本的に行わない方針だ。ひかり電話網の中で,耐用年数を迎えた呼制御サーバーの分の処理は,徐々にNGNに移していく。「電話網に例えれば,D70交換機から新ノードに収容替えしているイメージだ」(河野部門長)という。

 今後は,ひかり電話網の音声トラフィックを,どうNGNに移していくかを検討する。トラフィックをNGNにう回させても,通話相手の電話網からは関門交換機(IGS)接続インタフェースを通してつながっているので,見分けは付かない。外から見えないうちに,ひかり電話サービスの信頼性は,新旧併せてNGNが担保する形になっていきそうだ。

NGNでのビジネスタイプ提供は来春以降

 サービス面では,大企業向けの「ビジネスタイプ」に課題がある。個人向けのひかり電話と中小企業向けのひかり電話「オフィスタイプ」は,旧世代網のサービスもNGN版もほぼ同じ内容のものを提供できている。一方,同一契約者間の通話料が無料で,最大600回線の同時通話ができるビジネスタイプは,旧世代網では提供しているものの,フレッツ 光ネクスト回線用のメニューがまだ用意されていない。

 このことが,一部のユーザーに不便を強いている。ある企業は,「NGNかどうかを意識しないでフレッツ光回線を引いたら,ひかり電話は8回線までのオフィスタイプしかないと言われた。NGN商用化後に光が通った拠点なので,Bフレッツを引くこともできず困っている」という。

 NGNは現在,既存のフレッツ光と同等のエリアに拡大するよう設備を展開しているところ。だが,中には「光ネクストしか開通させない収容ビルもある」(NTT西日本の大西担当部長)。NGN開始前の時点で,光アクセス網のエリア・カバー率はNTT東日本が90%,NTT西日本が88%。それを2009年度末に,それぞれ93%と89%にする計画だ。数パーセント程度とはいえ光ネクストしか開通していない収容局エリアでは,同時に8回線を超えるひかり電話の利用はできないことになる。

 NGNにビジネスタイプ相当のサービスがないのは,「サービス設計を一から考え直している」(井上取締役)ため。以前のビジネスタイプでは様々なPBX機能をサービス網側から提供した。そのための呼制御サーバーもビジネスタイプ専用に設置していた。NGNでは共通プラットフォーム上で提供し,機能も絞る予定だ。提供時期は2010年春ころを想定している。