情報システムの“ユーザー企業”にとって、情報システムをどう活用すれば競争力を強化できるのか。ITベンダーやシステム・インテグレーターなどの営業トークや提案内容を見極めるうえで何に留意するべきか。ITベンダーなどに何かを求める以前に、“ユーザー企業”が最低限考えなればいけないことは何か――。

 野村総合研究所で約20年間勤務した後に、人材派遣大手スタッフサービスのCIO(最高情報責任者)を務め急成長を支えた著者が、情報システムの“ユーザー企業”の経営者・担当者の視点から、効果的な情報化のための発想法を解説する。

 構造不況に陥っている“ユーザー企業”が情報システム導入・IT(情報技術)活用を考えるうえで必要な切り口は3つあります。このうち、前々回(第5回)は「呉越同舟(ごえつどうしゅう)の資源共有化」を、前回(第6回)は「新たに育成すべき層」を説明しました。

自らを「変化対応業」と再定義したコンビニ

 第3の切り口は、「自らを再定義する戦略」です。

 コンビニエンスストア(以下、コンビニ)最大手であるセブン-イレブン・ジャパンが、自らを「変化対応業」であると「定義」してきたことはよく知られています。一般的には業種分類に変化対応業というものはありませんが、これは自らの変革を持続させるための“スローガン”として極めて分かりやすいものです。世界一、変化が早くかつ細かな日本人消費者への対応を旨とするといった意味合いでしょう。

 このスローガンを追求し続けるためにセブン-イレブンは、変化をいち早くかつ細かく発見する目的で、仮説・検証を行動様式の基本としてきました。“ユーザー企業”としても、仮説・検証のための情報化・IT投資を徹底的に進めてきました。もしセブン-イレブンが「生活者利便提供業」とか「総合サービス拠点」といった、自らを第三者的に解説した表現で定義したとすれば、社員や加盟店などの意識はまた違ったものになったでしょう。

 セブン-イレブン・ジャパンが、米国で生まれたコンビニという業態を日本に輸入したのは1970年代のことです。当時、コンビニは新しい産業であり、構造改革を必要としていた業種、業態ではありません。しかしながら日本のコンビニは、従来の零細小売店にとって、まさに構造改革であり、日本特有の零細小売業を変革させたのがセブン-イレブンを代表とするコンビニだったのです。

 本家である米国のセブン-イレブンは、コンビニエンスストアすなわち「便利な店」という定義で登場しました。これは一定の成功を収めましたが、後に経営危機を迎えてしまいました。日本のセブン-イレブン・ジャパンは米国のノウハウを高額で購入しましたが、「変化対応業」だと自らを「再定義」して、日本の零細小売業の構造改革あるいは日本の流通革命を進めてきたのです。結局、日本のセブン-イレブンはその後、米国セブン-イレブンを救済する形で子会社化しました。

 自らの再定義は、「戦略」と一体でなければ意味がないのです。第三者的に解説しただけのものや、精神論、イメージ先行型のものではダメです。業界全体が成長しているならばそれでも何とかなるかもしれません。しかし、構造を変えねばならない企業にとって「CI(コーポレート・アイデンティティー)活動」といったお祭り騒ぎで、コストを浪費するだけに終わるのがオチでしょう。