ITの分野で世界企業と渡り合うには、他社に負けない技術力が不可欠だ。NTTデータは現在、「倍速開発」というスローガンを掲げ、開発生産性の向上に向けて研究開発を進めている(図1)。

図1●NTTデータが進めている「倍速開発」の概要。七つの取り組みを総合して工期短縮を狙う
図1●NTTデータが進めている「倍速開発」の概要。七つの取り組みを総合して工期短縮を狙う
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開発期間半減に向けた七つの取り組み

 倍速開発は七つの取り組みで実現する。開発工程だけでなく、要件定義段階からメスを入れて効率化を図る。

 「要件定義段階のミスは、大きな手戻りにつながる。上流の作業品質強化は生産性向上の必須条件だ」と、技術開発本部副本部長の木谷強ソフトウェア工学推進センタ長は話す。

 上流作業の強化の一環で、同社が来年4月から本格的に開始するのが、要件定義書のレビューだ。技術開発本部が各プロジェクトの要件定義書に点数を付けて客観的に評価する(図2)。

図2●上流工程での手戻りを防ぐため、要件定義書を採点する仕組みを用意した
図2●上流工程での手戻りを防ぐため、要件定義書を採点する仕組みを用意した
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 点数を付けるために、同社はまず、「要件定義書に何を記載するべきか」を規定。同社の開発標準や国際標準のドキュメントを参考にし、全5章、18節からなる「要件定義ガイドライン」として昨年9月に作成し、さらに採点の仕方を「要件定義書スコアリング手順書」としてまとめた。

 ソフトウェア工学推進センタの大杉直樹シニアエキスパートは「形式的に正しく書かれているどうか、いわばプログラムのシンタックスエラー(文法的な誤り)を発見するようなもの。あえて内容はチェックしないが、必要事項が記載されているかを確認できる」と説明する。

 昨年度は10件、今年度は19件の要件定義書をレビュー。金融向けの新規案件などで適用した。「レビューを受けた担当者から、一定の評価を受けたので、2010年度から全社的に採用する」(大杉シニアエキスパート)と言う。

時差を利用して休まず開発

 時差を利用した24時間開発にも手を着け始めた。欧州、インド、日本などNTTデータがグローバルに持つ拠点に作業を割り振り、24時間連続で開発し続ける。3拠点で引き継ぎながら絶え間なく作業すれば、理論的には3倍速く開発が進む。

 今年度は、2件のツール開発プロジェクトで試験的に実施している(図3)。欧州の拠点で開発したソフトの動作をテスト。結果を欧州の18時に日本へ送信する。日本時間は2時なので、翌朝9時から受け取ったテスト結果を分析する。

図3●2009年度にNTTデータが試験的に進めた「24時間開発」の概要
図3●2009年度にNTTデータが試験的に進めた「24時間開発」の概要
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 日本で15時までに分析を終えれば、インドで11時30分からソフトの修正作業に入る。インド時間で17時30分に作業を終えて欧州に送信すれば、欧州では13時から次の動作テストを開始できる。

 アプリケーションの方法に加え、ミドルウエアやハードなどの組み合わせを検証する、方式設計のスピードも向上させる。ミドルウエアやハードの組み合わせを事前に検証してシステムの信頼性を高めつつ、開発期間を短縮する。

 現在、検証済みの基盤には金融機関向けの「PORTOMICS(ポートオーミクス)」、オープン系の「PRORIZE(プロライズ)」、オープンソースの「Prossione(プロシオーネ)」の三つがある。

 各基盤とも数年前から整備し始めたが、個別プロジェクトへの適用促進と各プロジェクトからのフィードバックの積極的な受け入れはここ1年ほど。一定規模以上の案件には採用を勧めるようにした。

 「山下社長が開発スピード向上に力を入れ始めたのが転機になった。今後は海外プロジェクトへの採用を促し、買収した海外子会社からのノウハウも集約したい」と藤野範男基盤システム事業本部システム方式技術ビジネスユニット長は話す。