本研究所では、クラウドコンピューティングについて、モバイルソリューションの観点から企業の情報システムを考えます。前回は、クラウド化に積極的な企業の要件を整理しました。今回は、2009年に起こった変化を振り返って棚卸しすることで、モバイルクラウドの台頭によって2010年以降に起こり得る企業環境の変化を考察します。

業界構造が大きく変化した2009年

 第1回で述べたように、2009年は市場が収縮したことで、IT投資抑制など、コスト削減圧力が非常に強くなった年でした。その結果、新規事業検討プロジェクトの停止、残業の減少といったコスト削減が徹底的になされました。IT部門へのコスト削減要求も強まり、SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)やクラウドの活用事例が増えてきました。

 2009年来からは、ネットブックの販売台数が急増しパソコン業界のコスト構造に変化が起こったように、クラウドのビジネスによって業界構造が大きく変化し始めています(図1)。そんな中、米マイクロソフトが最新OSのWindows 7と、クラウドソリューションであるWindows Azureを発表しました。オープンソースを中心に運営されている安価なクラウドサービス陣営との全面戦争に突入したのです。

図1●2009年にはIT業界を揺るがす変化が起こった
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 一方で、iPhoneの好調な伸びや、Android搭載スマートフォンの登場を引き金に、様々なプラットフォームを持つ端末からWebサービスが利用しやすくなってきました。日本においては2009年6月以降、twitterをはじめとするソーシャルかつリアルタイムなWebサービスが普及を見せ始め、利用者数は250万人を超えたと言われています。

コンシューマ市場の変化は企業市場で必ず起こる

 Twitterなどの特徴は、リアルタイム検索などの実現によって蓄積型からリアルタイム型の情報検索が可能になったことであり、米グーグルまでもが追随しました。個々のつぶやきが固有のURLを持ち、検索対象になることで、情報量がこれまでと比べられないほどに急増しています。「情報爆発」とも呼ばれます。これらは携帯やスマートフォンからも参照・利用されているわけです。

 さらにGoogle音声検索の実現や、AR(拡張現実)を実装したセカイカメラなど、新しいユーザーインタフェースを持つアプリケーションも登場し始めました。これらにより、これまで強いられてきた操作方法やコマンド入力のあり方が抜本的に変わるかもしれない可能性が出てきたのです。

 「コンシューマ系の事象ばかりではないか」と指摘されそうですが、Webサービスではコンシューマ系で起こったことが必ず法人市場でも起こります。「オープン」「ソーシャル」「リアルタイム」は一つのキーワード群として、2010年の企業活動に大きな影響を及ぼすことでしょう。