7月から9月にかけて携帯電話の純増数の順位が目まぐるしく変動した。26カ月にわたり1位だったソフトバンクモバイルは7月に2位に後退。そのとき1位となったNTTドコモも,9月には最下位に転落した。音声端末以外の需要開拓,2年契約が切れたユーザー狙いのキャンペーンなど,各社の激しい競争が背景にある。

 景気低迷や買い替えサイクルの長期化によって,携帯電話の販売台数は低迷している。JEITA(電子情報技術産業協会)の統計によると2009年1~6月の携帯電話出荷台数は1640万台で,前年同期比37%減となった。こうした状況下で購入者を奪い合う事業者間の競争は,激しさを増している。

 実際,TCA(電気通信事業者協会)が取りまとめた純増数を見ると,2009年夏商戦以降に各事業者が一進一退の攻防を繰り広げている(図1)。7月には,2年以上にわたって純増1位だったソフトバンクがその座をNTTドコモに明け渡した。ところが9月には状況が一変。ドコモは4位に転落し,4位が続いていたKDDIが2位に浮上した。大きな順位変動を引き起こした背景には,(1)音声端末以外の分野への販売拡大,(2)2年契約が切れたユーザーを巡る競争激化──の二つの要素がある。

図1●夏から秋にかけ携帯電話純増数の順位に大きな変動
図1●夏から秋にかけ携帯電話純増数の順位に大きな変動
7月にソフトバンクの連続1位が途切れたり,9月にドコモが4位に転落したりするなど大きな動きがあった。

ソフトバンクはフォトフレームで挽回

 パソコン用のデータ通信カードを訴求することでユーザーを獲得したのがNTTドコモだ。月額で上限5985円というパソコン向けデータ通信の新プランを7月に投入し,上限が1万円だった従来プランよりも大幅に料金を引き下げた。さらに,ドコモショップで小型ノート・パソコンと組み合わせてカードを販売するなど販路を拡大させた。

 7月にNTTドコモが1位になった要因を,ドコモ自身も「データ通信カードの販売台数が後押しした」(販売部の岡誠一販売担当部長)と分析する。7月のNTTドコモの純増数は14万3600。この中でiモード契約の純増数はわずか3万9800に過ぎない。MVNO(仮想移動体通信事業者)による契約を含めて,数万の単位で大量のデータ通信カードが売れたことがうかがえる。

 6月末に新製品「iPhone 3GS」を発売し,6月の数字に約2万5000を上乗せして7月の純増数を13万7600としたソフトバンクも,NTTドコモのデータ通信カードによる底上げには追い付けなかった。販売店筋からは,ちょうどその時期に「強引な契約数の獲得手法について週刊誌に報道されたため,派手な施策を自粛した面があったのでは」と推察する声も聞こえてくる。

 しかしソフトバンクは8月に1位を奪い返す。その立役者は,「普通の携帯電話以外の需要を増やす意図で投入した」(ソフトバンクモバイル マーケティング本部 マーケティング・インテリジェンス統括部マーケティング戦略部 池田昌人部長)という製品だ。それが携帯電話から送ったメールを受信して,添付された写真データを表示できるデジタル・フォトフレームである。

 フォトフレームの利用料金は月額980円だが,6月からは490円に値引きするキャンペーンを実施した。さらに,多くの店舗では,携帯電話の購入者に特典として実売約1万9000円のフォトフレームを無料配布した。フォトフレームの契約は「通信モジュール」の項目でTCAの純増数にカウントされる。ソフトバンクの同項目を見ると,6月に1万2000だったものが7月は3万1200,8月は4万8200と伸びている。この数値の大半はフォトフレームとみられる。

 販売の現場でも,「機能が飽和状態の一般的な携帯電話と比べて,フォトフレームは利用イメージを訴求しやすく“実家の両親へのプレゼントにどうですか”などと推奨しやすい」(ある販売店関係者)と評価は高いようだ。