勝手にレッテルを貼られ、実力があるのに不当な扱いを受けることがある。目的意識を持って頑張っても、その努力が踏みにじられる。「不遇だ」と訴えても何も変わらない。トラント代表取締役の小川 直子 氏は、悔しさを外に出さず、強みを磨きぬけばよいという。(日経コンピュータ、文中敬称略)

(写真:菅野 勝男)

 ITの世界に活躍の場を求める女性たちに注目される会社がある。システムコンサルティングを手掛けるトラントだ。社員50人のうち4割が女性であり、男性も女性も分け隔てなく、対等に活躍できる会社と見られているからだ。創業社長の小川直子は「女性の活躍」「男女平等」といったテーマでメディアにしばしば取り上げられる。

 もっとも、当の小川はこう話す。「男女平等と言っても、わたしたち女性は男性とは違う。男女がお互いに良い形で協力できる道を探ることが大事でしょう」。

 IT産業の中で悪戦苦闘した経験を持つ女性エンジニアたちには、こう諭す。

 「悔しいのはよく分かる。ただ女性が男性と同じように働くことは難しい。無理に張り合ってもマイナスになるだけ。といって不公平だ、不満だと口に出しても何のプラスにもならない。男社会に対する主張ばかりではなく、女性は女性の良さを考えるべき」。

 「女性は気配りに長け、コミュニケーションも得意。自分が苦手で男性が得意な部分で平均点を目指し、女性の良さが生きる得意分野を見つけ、それを最大限に伸ばしてほしい」。

 もっとも小川自身が経験と実績を積んでも「女性だから」と軽く扱われるなど、悔しい思いを積み重ねてきた。負けず嫌いで「女のくせに」といった声には敏感に反応し、反論したり、周囲に不満を漏らしたりすることも多かった。

 小川は幼いころからパソコンに慣れ親しみ、「将来はシステムのエンジニアになる」と決めていた。金融系の会社にプログラマとして就職、希望通りのIT産業に飛び込んだ小川は3年間、同僚の男性エンジニアたちと同じように仕事に没頭、無我夢中で働き続けた。

 仕事の繁忙期には、不眠不休に近い日々が続く。気がつくと無理がたたって体調が悪くなり、仕事を今まで通りには続けられない状態になっていた。退職して壁に突き当たった小川は、周囲の「もう少し女性らしい仕事をしたら?」という声に揺れて、一時は洋服の販売員になって社会復帰を目指そうとした。

 だが、「このままでは終わらない」と、IT産業への想いは消えなかった。激務の3年間を通じて、小川は職場の問題点を痛感していた。労働環境は不規則であったし、職人気質が強すぎて顧客側に立って物事を判断できないエンジニアが見受けられた。

 「何とかできないものか」と考えても、エンジニアの立場では解決に向けた影響力においても実行力においても限界がある。また、最初にエンジニアとして籍を置いた会社は巨大組織であり、そうしたところに戻っても、仕事のやり方や組織を変えられる立場になるまで何年もかかってしまう。